闇が輝いていた街・阿部野橋
FirstUPDATE2018.5.3
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 近鉄前交差点から四方に広がるこの一帯のことを「阿部野橋」と呼び習わしている人はあまりいないと思います。
 ま、やっぱり「天王寺」呼び派が大勢を占めるって感じで、あとは「阿倍野(あべの)」でしょうか。
 しかし近鉄南大阪線沿線に住む人間にとっては、やっぱりあそこは「阿部野橋」なんですよ。
 (どーでもいいけど、阿部野橋と阿倍野は何故か「あ<べ>の」の漢字が違うんですよ。間違えてるわけじゃありません)

 アタシは大学時代、近鉄南大阪線沿線沿いに住んでいました。
 だから「手近な都会へ行く」となると、やはり阿部野橋っつーことになってしまう。距離的には堺東とかの方が近いのかもしれないけど、堺東はクルマでないと行きづらいし、かと言って藤井寺では都会とは言えない。
 言っても電車で30分くらいだし、例えば打ち上げとかコンパ(合コンではなくてサークルの定期的な飲み会)なら、まァ阿部野橋でやるのが妥当だったんです。
 たしかに阿部野橋、ま、天王寺のことですが、はさすが梅田と難波に続く街だけあって店は多い。
 駅前っつーか近鉄百貨店が駅ビルに入っているし、飲み屋やらなんやら、もう本当に盛りだくさん。
 しかし何度行っても、イマイチ都会に来てるって感覚がないんです。何というか、それこそ銀座のような「花道感」みたいなのがまるでない。
 アタシが行ってた頃はチンチン電車だって走ってたし、あまりにも下駄履き感が強すぎるっつーか。
 そのせいか、「街に来た」みたいな感覚があまりにも薄くてね。平気で汚い格好でウロウロしてましたよ。

 飲み会以外でもこの近辺には何かと縁があって、「MC時代に花束を」で書いた、大助花子や小づえみどりの漫才イベントの司会をアタシがやったのは天王寺ステーションデパート(現・天王寺ミオプラザ館)のビアガーデンだったし、近鉄百貨店でもバイトした記憶がある。
 そういやバイトとかぜんぜん関係なく、よく近鉄百貨店の社員食堂に勝手に行ってたな。
 従業員以外立ち入り禁止の区域は通らなくても行ける場所なんだけど、ちょっとした迷路っぽい感じになってて、従業員でないとなかなかたどり着けない場所に食堂があったんですよ。もちろん今はどうなってるか知りませんが。
 何で何度も勝手に行ってたかというと、メチャクチャ安いから。たしか500円以上のメニューなんかなかったもん。カレーとか200円くらいだったはずです。社食だから当然かもしれませんがね。

 その頃、1980年代後半当時から近鉄百貨店は小綺麗だった。デパートだから小綺麗なのは当たり前だけど、やっぱりそういう小綺麗なイメージと阿部野橋のイメージは結びつかないんです。
 下駄履き感覚の街なんて書いたけど、ホントのことを言えば下駄履き感覚でさえ良く言い過ぎで、間違ってもお上品な街でないのは当然として、人によっては「コワい」とさえ思われていたんじゃないかと。
 そんな印象が不正解と言えないのが辛いところで、北西に向かえば天王寺動物園から新世界につながるし、西には西成、南西にはあの飛田もある。
 しかし今の阿部野橋付近はそうした古いイメージをかなぐり捨てていってる感じで、あべのハルカスなんて必死で下駄履きの街を払拭しようとした産物に見えてしまう。
 でも、やっぱり、アタシとしては、かつての阿部野橋の方が思い入れがあるのはしょうがない。とくに阿部野橋駅からあべの筋を渡ったあの一帯、あれこそあの街の象徴だと思う。
 もうあそこもすっかり小綺麗になっちゃって、あべのキューズモールなんてのが出来てるみたいだけど、ほんの数年前まであそこは「戦後の闇市」のまんまの姿が残っていたのです。

 上野のアメ横が闇市を現代風に発展させたものだとするなら、ここは闇市の冷凍保存といった風情で、1940年代後半の邦画によく出てきた、迷路のように細くて暗いアーケードに無数の小汚い小店舗がひしめき合っている、そんな場所だったんです。
 場所だけではなくて、行き交う人も戦後の世界からタイムスリップしてきたんじゃないかと思えるような人ばかりで、極めて純度の高い戦後の跡だったと思う。
 そんな場所に、何故か珉珉がありました。言っても珉珉はチェーン店ですが、ここの珉珉は妙な旨さがあって、アタシは阿部野橋に行く毎に食いに行ってました。ま、シチュエーションっつーか場所柄という下駄もあったとは思うけど、チャーハンとかに何故か紹興酒を使ったりして、独特の味わいだったこともたしかです。
 あれ、もう一度食いたいなぁ。

 こんなこと書いてたら懐古厨みたいだけど、でもあれこそが阿部野橋のアイデンティティだったと思う。
 変に小綺麗になったら、もうただの「スケールの小さい梅田や難波」でしかなくなる。いくら「あべのハルカスは日本で一番高いビルなんやで!」なんて息巻いたところで、どうでもいいことを自慢してるようにしか思えない。
 ただでさえ今の時代、どこの街に行ってもチェーン店ばかりで変わり映えがしないんですよ。わざわざ「その街に行く意味が希薄」てな街ばっかりです。
 あの闇市が冷凍保存されたような場所ね、人によってはけして側に寄りたくもないような場所かもしれないけど、惹かれる人は猛烈に惹かれる。これからの時代、街に限らず何でも「万人にそこそこ受け入れられる」ものよりも「95%に毛嫌いされるけど、残りの5%に熱狂的に支持される」ものの方が大事な気がするんですがねぇ。

もう触りようがない飛田新地はともかく、やっぱ街の<カラー>がなくなっていくのは寂しい。いや仮に残ってたとしてもユーチューバーに食い荒らされそうだけどさ。




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