なさそでありそな街・五反田

　さて、たぶん地方から出てきた人が東京にたいして一番ビックリするのは、渋谷とか新宿とか銀座じゃないと思うんですね。

　そういう街はテレビでも散々紹介されてるし、さすがに「ものすごい規模の街」みたいな事前情報は持ってるはずです。
　しかし「ほとんど名前も聞いたことがない街なのに、自分の故郷の一番の繁華街よりも＜はるかに＞栄えている」ってのは結構ショックなんじゃないかと。
　五反田は山の手線の駅ですし、極端に知名度の低い街ではないけど、それでも地方出身者からすれば馴染みがない。いや仮に東京で生まれ育ってても何らかの用事がない限り、わざわざ足を運ぶようなこともないと思うんですよ。
　アタシも関東に住んで結構時間が経つけど、長い間五反田に行ったことがなかった。
　クルマで東京に行った時はルート的に通ることは多いんだけど、クルマを停めたり駅で降りたりみたいなことは一度もないままでした。

　初めて五反田に足を踏み入れたのは去年かな。何か付き添いみたいな感じで行ってね。ま、その時は駅前のうどんを食べただけだったけど。
　ここのうどん、結構有名みたいなんだけど、冷とり天うどんがマジで美味い。ま、店の名前を書かなくても「五反田冷とり天うどん」で検索したら出てくるのでお近くの方は是非。
　しかしまァ、さすがにうどんを食べるためだけに神奈川くんだりから五反田には行かない。だから「またあのうどん食いたいなァ」とは思ってたけど、ずっと行かずじまいでした。
　それが今年に入ってね、某イベントの手伝いをすることになって4日連続で五反田に通った。五反田ったって駅前はほとんど行かず、イベント会場だったTOCビルに行っただけなんだけど。だからうどんも食べませんでした。

　いよいよ本題ですが、TOCビルです。
　数年前の「夜の巷を徘徊する」で登場したのでご記憶にある方もおられると思いますが、ここ、かなり面白い施設です。
　といっても、ものすごく面白い店が入ってるとかじゃないんですよ。
　それでもアタシが惹かれてしまうのには、ちゃんとした理由があるのです。

空港ってふだん遊びにいくような場所ではないわけですよね。だけれどもちょっと非日常的な空間でしょ。極めて小規模な＜街＞として完成されていて。高級ではないけれど下世話ではけしてない。また「これから旅にでるんだ！」というドキドキ感とも合わさって、もうどうしようもないくらいワクワクしてしまうんですよ』（2004年3月22日更新「空港愛を語る」）

　どうもね、アタシはひとつの街として成立してしまう空間に弱い。
　だから空港もだし、サービスエリアなんかにも惹かれてしまう。もしここに取り残されたら、なんてくだらない妄想をするのがメチャクチャ楽しいのです。
　けど何でかショッピングモールはグッとこない。いやショッピングモールは好きか嫌いかで言えば好きなんだけど、空港やサービスエリアのような非日常的なワクワク感が弱いんですよね。
　そんなことを言えばTOCビルもさほど非日常的ではない。つかオフィスもいっぱい入っているわけで、むしろ当たり前のように日常的空間として存在していると言った方が良い。
　なのにTOCビルには独特のワクワク感がある。何故なら「2018年的日常」ではなく、あまりにも「昭和的日常」だからです。
　昭和っつったって三丁目の夕日的な昭和じゃなくてね、1960年代東宝映画的な昭和。それがたまらない。

　一応データ的なことを書いておけば、TOCビルが出来たのは1970年です。だからギリギリ1960年代からは外れるんだけど、それでも東宝サラリーマン映画の世界に迷いこんだかのような昭和感がある。
　地下の怪しげな店も昭和的だし、小さい飲食店がひしめくように並んでいるのも昭和的。B1と1Fの間に中1Fみたいなのがあるのも昭和っぽい。
　建物も、今は二十一世紀ですからね。もちろん装飾が施されているけど、ところどころ隠しきれてない昭和感が残ってるのも素晴らしい。トイレの個室の大半が和式だとか。
　しかし一番のストロングポイントは何といっても屋上です。
　もうここは最高すぎる。信じられないくらい最高。初めて屋上に上がった時、即座に「おお雲雀」が頭の中で鳴り響きましたもん。
　「おお雲雀」は映画版「江分利満氏の優雅な生活」のオープニングとエンディングに使われているわけですが、映画のようにバレーボールは出来ない。つか禁止されています。ま、コーラスくらいなら良いのかもしれないけど。
　それでも屋上の感じがあまりにも江分利満氏でありすぎる。個人的にポイントが高いのはウッドデッキ部以外は喫煙可ってところです。嫌煙家の方にはウザいかもしれないけど、やっぱ昭和の屋上なら喫煙出来ないと気分が出ないですから。

　別に関係者でないと入れないとかじゃないから、昭和的な建物が好きな人は一回行って欲しい。
　たしかに駅からはそれなりに歩くけど無料のシャトルバスも出てるし、別に行きづらくはないです。
　メシはTOCビルの地下で食ってもいいし、駅前まで戻って冷とり天うどんを食ってもいい。
　と書くと何だか行きたくなってきたでしょ。たしかに一見取り立てて行くほどでもなさそうな街なんだけど、意外とアリな街、それが五反田なんです。

TOCビルも閉館になっちゃいましたね。あと本文中には店名を書いてないけど「うどん屋＝おにやんま」は人形町に出来ちゃったし。となるともうあんま五反田に行く理由がなくなってしまった。つかTOCビルは残しておくべきだったよ。

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