親の顔
FirstUPDATE2018.1.19
@Scribble #Scribble2018 #フィクション 単ページ 実家でひとり暮らし ルーティーン モデル 宮藤官九郎

まったく、ぜんぜん、いったいどんな育ちをしてきたんだ、親の顔が見たいわ!みたいな説教臭い話でも怒りでもありません。

厨二病、という言葉があります。「厨二」と書くとネット用語になってしまうのですが、ま、「中二」、つまり中学2年並みの思考をすることを厨二病なんて言うわけです。
最初は伊集院光が発したと言われ、浸透する過程において「壁ドン」などと同様に意味が変わったとされますが、今は「如何にも中学2年くらいの人間が考えつきそうな、幼稚で安易で青臭い発想」みたいな意味で使われています。少なくともネット界隈では。

さて、フィクションの設定で「こういうのを厨二病ってんじゃないの?」とアタシが思うのが「主人公が高校生以下でありながら、実家でひとりで暮らしをしている」っての。
何だかよくわからないけど、とにかく両親ともに仕事か何かで遠距離に赴任中で、それなりに広い一軒家(もしくはマンション)に主人公がひとりで住んでる、みたいな。
まァ、こーゆー設定にしたくなるキモチはわかる。両親がいないから門限とかないし、とくに恋愛モノの場合はヒロインを家に招いて、みたいなドキドキを演出しやすい。
けど、アタシから言わせれば、やっぱこれは厨二病設定だわ。

以前も書きましたけど、高校時代のアタシの夢は「ひとり暮らし」でした。
誰の監視もない場所で自由気ままに暮らしてみたい。ま、そーゆーのに憧れない人もいるんだろうけど、憧れることも普通だとは思うわけで。
しかしひとり暮らしってのは想像するよりはるかに大変なことが多い。
まずメシの問題。自炊が如何に大変か、いや料理が大変というよりは「自分のためだけに食事を作って、後片付けまでやることが如何に虚しいか」を味わうことになります。かと言って毎日外食は金銭面で現実的じゃないし。
他にも掃除、洗濯、その他諸々のね、実家に居れば全部「ママがやってくれたこと」を自分でやらなきゃいけないのです。それも毎日。
さらには家賃も払っていかなきゃいけないしね。

それよりも何よりも、おそらく「ひとり暮らしなんかより実家に住んだ方が良い」と考える人にとって一番大きいのは「環境の変化」ではないでしょうか。
親がやってくれたことを自分でやる、これは大変なことなのですが、どっちかって言うと、実際にやってみてわかるっつー類いの大変さです。つまり始める前は甘い見通しを立て易く、ひとり暮らしを始めることへの障害にはならない気がする。
けれども「環境の変化」はわりと想像がつきやすい。極端な例を出すなら、いきなり海外への移住を命じられたら、とか考えたら想像しやすいでしょう。

話を戻しますが、こういう人にとって「理想の生活環境」は「実家でのひとり暮らし」なんじゃないかと。
環境は変えたくない、けど自由も欲しい。もちろん家賃のことなんかで悩みたくもなければ、そのためにバイトもしたくない。炊事掃除洗濯は大変かもしれないけど、これは出来る、みたいな根拠のない自信だけはある。
ま、ある意味究極のワガママなわけで、恋愛モノのフィクションにおけるハーレム展開に匹敵するような徹底的に都合の良い、典型的な厨二的発想なんじゃないかと。

フィクションにおいて「実家のひとり暮らし」の利点を挙げるなら、両親を描かなくても良いことになると思います。主人公が大学生以上なら普通のひとり暮らしでいいんだけど、高校生で両親を描かなくても済む設定、となったら主人公を寮にでも入れるか、ま、あとは実家でのひとり暮らしくらいしかないわな。

何故そこまで主人公の親を描きたくないのか、これは簡単で、親子の関係というのをフィクションで描くのは非常に難しいのです。
ましてや作者の年齢が若いと、子供側からの一方的な視点になってしまいがちで、というか作者の実年齢より上の世代のキャラクターはどうしてもステレオタイプになりがちですからね。

それはしょうがないんですよ。やっぱその年齢にならないとわからないこともあるわけで、どうしても自分の分身とはなり得ない。となると有り体というか、つまらないキャラクターになってしまう。
それを回避するにははじめから登場させなければ良い。両親は「いる」(離婚もしてなければ死別もしていない)けど、作中には登場させない。
ま、賢明っちゃ賢明な「やり方」です。

それにやっぱ、ある年齢までは親の存在って鬱陶しいものなんですよ。いや恥ずかしい存在と言った方がいいか。
フィクションにおいて主人公は、ほとんどの場合は作者の分身です。となると主人公の両親はどうしても作者の両親に似てしまう。性格とかだけじゃなくて顔も含めてね。
これが気恥ずかしいってのはもっともな話で、まさか美男美女にするわけにもいかないし、かといってリアルにやってしまうともっと恥ずかしい。

その結果、紛れもなく健在だけど、主人公の両親が作中で描かれることは一切ない、なんてことが珍しくないのが実情です。
けどこれは厨二病じゃないと思うんですよ。
さっき書いたような「実家でひとり暮らし」なら、まァ、厨二病と言えると思うんだけど、両親が作中に登場しないくらいなら、「照れ」という言葉で済ませても良いような気がする。

アタシはもうすぐ大台だけど、こんなどーでもいいブログにすら、最初は親の話を書くのが恥ずかしかった。さすがに今はそこまででもないけど(ごく稀に親との会話も書いてるし)、だからと言ってガッツリ書きたいとも思わない。それだけは勘弁してくださいって感じです。
それを考えれば、親子の関係を描くのが得意な作家(さいきんでいえばクドカンとか)なんか、どういう発想なんだろ。

ま、その辺の話をいくら聞いてもアタシには理解できないんだろうけど。「恥ずかしい」を乗り越えるってすごいことだからねェ。







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