「バイヨン踊り」と生田恵子の無二感
FirstUPDATE2018.1.12
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たぶん1998年から2003年にかけての時期が、人生の中で一番雑多にいろんな音楽を聴いた頃だと思うわけで。

雑多に音楽を聴く、といってもいろんな方法がありますが、もっとも一般的な方法はマメにFMを聴くことでしょう。
たしかにFMなら自分に興味のないジャンルや、まったく知らないアーティストの楽曲を聴くこと(知ること、か)が出来る。しかし、どうしても「ここ数ヶ月以内に発売された」楽曲に偏りがちになるのも、やむを得ない。そうでない楽曲がかかることもあるとはいえ、ま、頻度の問題ですわな。

では本気で雑多に音楽を聴こうと思えば、これはもうジャケ買いしかない。
わかります?ジャケ買い。CDなりレコードなりのジャケットデザイン<だけ>を見て購入するっていう、アレです。
たぶんいくらいろんなことが進んでね、それこそ音楽ストリーミングサービスが今よりはるかに普及しても、ジャケ買いって文化だけは真似が出来ない。

そりゃあ音楽ストリーミングサービスでもジャケットは表示できるけど、そういうことじゃないんですよ。
ジャケ買いの醍醐味は何といっても「恐怖心と好奇心のせめぎ合い」です。
どんなジャンルの音楽かさえ定かじゃないけど、とにかく買ってみる。それも3千円近くもはたいて。ま、3千円の籤を買うようなものですからね。音楽ストリーミングサービスみたいに「仮に外れてても一円のダメージもない」のと比べものにすらなりません。

残念なことにアタシはジャケ買いをほとんどしたことがない。何つーか、そこまでチャレンジャーにはなれなかった。
しかし最初に書いた、1998~2003年は、とくに一番雑多に音楽を聴いていた2001~2003年頃は比較的ジャケ買いに近いことをしていました。
ま、レンタルCDならね、ダメージはさほどではないんです。たしか今よりはレンタル代は高かったはずだけど、言ってもたかが数百円です。だからかなりの数のジャケ買いならぬ「ジャケ借り」はしました。

ではジャケ買いは、となると、さすがにジャンルさえも不明のものを買ったことはほとんどない。あまりにも好みと違う時のダメージを軽減するには「せめてジャンルだけは絞らさせてもらいますよ」ってのは、まァ妥当だとは思う。
ただし、本当に一度だけ「アーティストはおろか、ジャンルさえもわからない状態」でジャケ買いをしたことがあります。

たしか2002年だったと思う。渋谷のタワーレコードにフラフラと入っていって、あえて普段聴くようなジャンルのコーナーは避けてね、本当にテキトーに「何か面白いものはないかな」と物色していたのです。
その時見つけたのが生田恵子って人の「東京バイヨン娘」です。
これは、ひと言でいえば「あまりにも知らなさすぎて興味を惹かれた」っていう相当稀有な例です。
昔の芸能人について「イッパシ」の知識があると自負していたアタシがまったく知らない。生田恵子なんて聞いたこともない。さらに、バイヨン?何だそれ?みたいな感じで。
何故こんなCDを手に取ったかというと、ジャケットが素晴らしかったからです。

画像

それにしても、よくもまあこのCDを手に取ったものだわ。
たしかに昔の曲を集めたものだけど、新譜ってことでもない。CDの発売が1999年、アタシが手に取ったのが2002年ですからね。だからタワレコで大々的にセールされてたわけでもないはずなのに。
帰って、とりあえず聴いてみた。感想を言えば間違っても「超当たり」ではない。まァ「中当たり」くらいですが、完全なジャケ買いで中当たりは上出来もいいところでしょう。
生田恵子の経歴は置いとくとして、バイヨンというジャンルです。これ、知らない人の方が多いんじゃないかな。ってもアタシもほとんど知らないんだけど。

とにかくブラジル発の音楽です。ブラジルの音楽といえば、サンバとボサノバが二大巨頭ですが、バイヨンもそれなりにメジャーなジャンル、らしい。
サウンド的にはアタシが聴くにサンバとボサノバの中間っぽく、サンバほど情熱的で激しいものではないし、ボサノバほどは洗練されていない。しかし逆に言えばサンバよりも洗練されており、ボサノバよりはノリが良くて明るく楽しい、みたいな。
たしかにサンバとボサノバは両極端なので、その中間くらいのってないの?と思っている方にはオススメです。そんな人いるのか知らないけど。

今回「バイヨン踊り」というタイトルにしたけど、CDに収められている中でこれが一番わかりやすい楽曲だと思う。検索したら某ニコ動で出てきます。


んで生田恵子という人ですが、アタシはそっち方面についての知識がないのでWikipedia大先生に頼りまくるけど、かなり前にお亡くなりになってますね。
画像検索すると、ほとんど先のCDのジャケ写しか出てこないけど、マルベル堂でプロマイドを扱ってるみたいです。

ジャケ写ではかなり美人に思えるけど、マルベル堂のサイトを見る限りはそうでもないね。ま、ものすごく鼻筋が綺麗なのには違いないけどさ。
Wikipedia大先生によるとドラマなんかも出てたみたいだけど、バイヨン関係のレコードを出さなくなって以降、何をやってたのか、何がやりたかったのか、うーん、正直、まったく実態みたいなもんが掴めん。ついでに言えば、何で1999年になって突然CDが発売されたのかもわからんし。別にこの頃ブラジルサウンドが流行ったってことでもないしね。

しかし実態のよくわからない生田恵子という人が、バイヨンなる日本ではマイナーなジャンル(ただし生田恵子が活躍した時期、つまり1950年代は世界的にバイヨンがブームになったらしい)を「聴いてる者が違和感ないくらいにアッサリした感じで歌ってる」ってのは、すごいと思う。
生田恵子は宝塚歌劇出身なんだから、もともとバイヨン歌手を志してたわけじゃないのは間違いない。たぶんレコード会社の指示で歌うことになったんだろうけど、そのわりには完全にサマになってるからね。
つか結構珍しいんじゃね?というのもサンバにしろボサノバにしろ、日本人が歌うととてもじゃないけど聴いてられないようなものが多いからね。それをあの時代にこのレベルのことをやってるってのは大したものだと思う。

けど一番大したものなのはアタシですよ。こんなのをジャケ買いで手にしたんだから。いやぁ、引きが強い強い。こんなことだけは。