バントの是非、は格好の議論の的になるっつーか、新規監督(新監督ではない。初めての監督、処女監督というべきか)は決まって「バントしない野球」を標榜したがるものです。
いわく、バントで簡単にアウトに相手に与えるのはもったいない、と。
しかし2年目3年目まで貫き通した監督はまずいない。せいぜい「序盤のバントは止める」が関の山で、これはバント作戦をあまり用いないアメリカ出身の監督でさえ、日本の監督に就任すると同じ結果になる。
この辺のことを書いてみたくなりまして。
アタシはね、まず根本的な話なのですが「野手にもスタミナがある」という考えが抜けてる気がするんですよ。
ゲームで言うなら、ごく初期の「ベースボール」(任天堂)以前のものを除いて、投手にはスタミナという概念がある。スタミナの概念を持ち込んだ極めて初期の例である「ファミスタ」では一球投げるごとにスタミナが1減る、みたいな単純極まるものでしたが、これは時代を減るにつれ複雑化しながら今も継続されています。
しかし野手にスタミナという概念が設定されているゲームはまずない。毎試合フルイニングで使っても疲れるということがない。せいぜい怪我のリスクが高まるとか、好不調の波の激しさまでです。
だけれども野手は疲れないなんてあり得ない。今のプロ野球でいえば、広島は新井やエルドレッド、阪神なら福留を休ませながら使うことによってパフォーマンスを維持させて、逆に巨人は何故阿部に休養日を与えないのか、という批判が後を絶ちません。
彼らはベテランです。ベテランだから疲れが溜まりやすい。だから休み休み使わなければパフォーマンスが落ちる。これはわかりやすい。
では体力のある中堅なら休みはいらないのか、と言うとそんなことはない。中堅だってやはり休養を挟む方が成績を維持しやすいわけで。
さあ、ここからが問題です。いったい「疲れ」というものが何なのか、です。
こういう話になるとすぐに「体力」という話になってしまう。身体の疲れ、ですね。事実ベテランにはこれが当てはまりそうなのですが、それはけして「バテた」とか「身体がダルい」みたいな話ではありません。
五体満足なベテラン選手など皆無と言っていいはずで、毎試合出続けると患部が悪化していって満足なパフォーマンスがしづらくなる。ただこれはベテランだったり満身創痍の選手だけに当てはまることだと思ってるんですよ。
アタシはそれとは別に「精神的スタミナ」があると思ってるんですよ。
重大な局面を味わうほど目減りしていく。これも体力と一緒で、休養を挟めば、極端に言えばシーズンオフの期間を挟めば、リセットはされる。
でも今年のようにWBCがあると、んで選出されると、さらにいえば主力として連日スタメンで起用されたりなんかすると、シーズン開始前の時点ですでに精神的スタミナが摩耗した状態になってしまう。
巨人の坂本の場合、実は腰の状態が悪いとも言われていますが、精神的スタミナの消耗も相当なものだと思う。WBCからずーっとショート守ってるんだもん。
何だかバントの話からズレてるみたいだけど続けます。大丈夫です。繋がります。
精神的スタミナが摩耗する原因は「プレッシャー」です。プレッシャーがかかる試合、プレッシャーがかかる局面、そしてプレッシャーがかかる打席で求められるもの。これらがすべて合わさって精神的スタミナが減少していくわけで。
バントを嫌いながらも日本人の精神面を考慮してバントを多用するようになった日本ハムのヒルマン元監督は「バントは日本人の免罪符」と言ったらしいですが、これはイマイチ、ピンとこない。
それより、これは誰が言ったのか忘れたけど、難しいセーフティスクイズではなくスクイズを選択させて「ベンチがリスクを取ってあげた方がいい」みたいな言い方をしててね。あ、これは面白い考えだわ、と。
ベンチから難しい局面で難しいプレーを要求されると、選手にかかるプレッシャーはハンパではないはずで、仮にその時は上手くいっても相当な精神的スタミナを使うことになる。その辺のリスクを上手くベンチが回避してあげる、アタシはバントの正体はそこじゃないかと思うんです。
よく言われることですが、とにかく日本人はプレッシャーに弱い。プレッシャーに強い、と言われる選手でもプレッシャーに耐えることが出来るだけで精神的スタミナが摩耗している。それは日本人特有なのかもしれません。
おそらくアメリカ出身監督にはそこが理解できない。バントを選ばない作戦での選手にかかるプレッシャーの大きさ、そしてそのことによってどれだけ精神的スタミナが摩耗するのかも、ね。
日本ハムの選手がヒルマンにバントをさせてくれ、と言ってきたのは、ヒルマンの言うような「堅実な野球をやってると思い込むことで得られる免罪符」ではないと思う。それより「日本人ナメんな!日本人がどれだけプレッシャーに弱いと思ってんだ!んなことずっとやってたらシーズン保つわけないだろ!!」という心の叫びだったんじゃないのかね。
ま、素人考えではバントはバントでプレッシャーがかかると思うんだけど、やってる選手からしたら要求が単純な分プレッシャー的には軽いのかもしれないし、次打者はゲッツーの可能性が薄らぐ分プレッシャーが少ないのは間違いないな、と。
つまりバント=日本人が如何にプレッシャーに弱いのか、そんな日本人がシーズン通して戦うには「バントという先送りの作戦」を随所に挟んでいかないと、シーズン終盤に精神的スタミナ切れを起こした選手が続出してしまうんじゃないかって話なわけでね。
これでは「得点効率が云々」とか「得点期待値が云々」とのたまうデータ至上主義の人と話が合うわけがない。たしかにその試合、そのシーンに限っては得点期待値は上がるかもしれないけど、そんなことが続けられる日本人ではない、と言うのがわかってないのかもしれない。
アメリカ人(メジャーはアメリカ人だけじゃないけど)のメンタルなら耐えられてもプレッシャーに弱すぎる日本人には当てはまらないんじゃないか、と。
アタシはね、これも日本流の野球と認めるべきだと思う。体力的なことはどうにかなる可能性はゼロではないけど、メンタル的なことは絶対に無理だもん。そこは変えられない。根底が変えられないのに効率優先で作戦だけ輸入しても上手くいくはずがない。
最後にもう一度いうよ。日本人が如何にプレッシャーに弱いか、ナメんな!!