変テンポ
FirstUPDATE2017.10.29
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タイトルはまったく違いますが、一応昨日のエントリの続きです。

インテンポ、なんて音楽用語があります。音楽用語ですよみなさん。勝手に読み違えしないでね。
ま、インテンポってのは、譜面通りっつーか、忠実にリズムを守る、と言った意味で使われるのですが、あんまり使われないけどアウトテンポなんて言葉も一応ある。まるまる訳したら「調子っ外(ぱず)れ」になるのか。
何度もしつこいですが、たしかにこれは音楽用語なのですが、実は会話にも当てはまったりするんじゃないかと。

会話でね、そりゃ性格だったり生まれ育った場所でBPM(←会話のスピード、くらいにお考えください)は違ったりはするけど、大多数の人はインテンポで喋ると思う。そして稀に調子っ外れのアウトテンポの人がいたりする。
ま、だいたい頭に浮かぶんじゃないでしょうか。普通の人はほぼインテンポ、そして「あいつ、何か会話のリズムが狂ってんだよな」なんて人はアウトテンポです。ものすごーくわかりやすくいえば蛭子能収なんか典型的なアウトテンポの会話の間です。

しかし世の中にはインテンポでもアウトテンポでもない、独特の間を持つ人がいます。
間違ってもアウトテンポと呼ばれるほど調子っ外れじゃない、けどインテンポの人と比べると何か違う。会話のテンポが無段階で変わり、しかしそれがその人独特の魅力になっている。
アタシはこういったインテンポでもアウトテンポでもない人を「変テンポ」と呼んでるんだけどね。あ、変テンポの「変」は変テコの変ではなく「変速」の「変」です。

そして変テンポの代表的な人が植木等なのです。
植木等といえば「お呼びでない」ですが、他の誰がやってもサマにならないのは、あのコントは変テンポの人しか不可能だからなんです。
「お呼び」コントはいわば異質者の乱入ですから、最初からその場にいた誰とも呼吸が合っちゃいけない。でもインテンポの人は「つい」合っちゃう。アウトテンポの人ですら一周回ったみたいになって合うことがある。
ところが変テンポの人は無段階で可減するから合うわけないし合わせようもない。つまり最後まで異質者は異質者のままです。

「引っ掻き回されたテンポ」が「お呼びでない」の生命線なのです。逆にいうならテンポを引っ掻き回せなければ「お呼びでない」は成立しない。
「植木等とのぼせもん」の中で「お呼び」コントが再現されていましたが、山本耕史はインテンポの人なので、いくら忠実に再現してもあの面白さは出ないわけでね。
またしても怪しいっつーか造語っぽい言葉を出しますが、変テンポの人、もちろん植木等を含む人たちは「絶対音感」ならぬ「絶対リズム感」を持ってるような気がする。いくら周りでガチャガチャいろんなテンポが飛び交ってても、絶対に自分のリズム感を崩さない。しかも微妙に可変させながら、という。

「シャボン玉ホリデー」の中で「明日を夢みて」を歌って植木等がメチャクチャっぽい感じでスキャットをするんだけど、まったくリズムがズレてない。あれだけムチャクチャやって、周りは当然インテンポで歌ったりしているのに、一切リズムを崩さないってのは驚異的です。しかも可変させているからメチャクチャ感を残しながら、ですからね。
これは天性の能力だと思う。アタシはたった一度だけ電話で植木等さんとお話しさせてもらったことがありますが、この時も何ともいえないフシギなテンポで、こっちが緊張感しまくっているというのを差し引いても完全に主導権を握られていたっつー。

では今、植木等ほどじゃないにしろ変テンポの人がいるかというと、たったひとりだけ思いつきます。
以前微妙な評価をした朝ドラの「ひよっこ」ですが、この中に宗男おじさん役で銀杏BOYZの峯田和伸が出演していました。
他の出演者からも「峯田さんは他の役者とテンポが違う」と評されていましたが、アタシはまさしくこの人は変テンポの人だと思う。

「ひよっこ」でもこの変テンポが十分に活かされており、この人が喋り始めると聞き耳を立てたくなるようなフシギな魅力に溢れていた。インパール作戦時の体験を語るシーンも、かなり長い独白だったのに、テレビで見ているこっちまで、黙って聞こうという気分になった。あれは他の役者ではそうはならなかったと思うし、演技力とか一切関係なしに、変テンポの人だけが持つ魅力で成立させていたと思う。

「植木等とのぼせもん」で植木等役を山本耕史が演じたことに不満は一切ありません。しかし劇中劇のコント、とくに「お呼び」コントを本当に笑えるものにしたかったのであれば、植木等役に峯田和伸を起用するべきだったと思う。峯田和伸なら「お呼び」コントの生命線である「引っ掻き回されたテンポ」を完璧に再現出来たと思うから。
もちろん再現コントの箇所だけの話で、他の大部分は「山本耕史の方がいいよな」ってなる可能性も十分あるんだけど。
ま、それでも、当たり前だけど峯田和伸もギターは弾けるんだし、ドチャメチャに明るくやらなきゃいけない映画撮影シーンと、マジメな素顔のギャップも出せたとは思うんだけどね。

いっこだけ問題があるとするなら、言いたかないけど、やっぱ「顔」かな。「ひよっこ」ではビートルズ好きが高じてマッシュルームカットにしてるって設定だったけど、角度によって「バナナマン日村?」って思うことすらあったくらいだから。
たしかに似てる似てないはどうでもいいけど、やはり植木等役は二枚目がやらないと感じ出ないからさ。まァ、植木等本人は「純二枚目」ではなく「変二枚目」なんだけどね。

うーん、あの「変声」と「変テンポ」と「変二枚目」がひとつの肉体に宿った人なんて、そう簡単にいるわけがないよなぁ。







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