歴史上ではない人物
FirstUPDATE2017.10.28
@Scribble #Scribble2017 #フィクション #テレビドラマ @クレージーキャッツ 単ページ ゴールデンボーイズ コント55号 モノマネ シャボン玉が消えた日 萩原流行 植木等とのぼせもん @小松政夫 山本耕史

たぶん憶えている人はほとんどいないだろうけど、1993年に「ゴールデンボーイズ」というスペシャルドラマが放送されました。

若き日のポール牧を主人公に、彼を取り巻く芸人や裏方の人たちにスポットを当てたドラマだったんだけどね。これ、アタシが笑いに一番興味がある頃に放送されたってのもあったし、脚本も市川森一ということもあって、ものすごく期待して見たんです。
ま、結論をいえば、あんまり面白くなかった。今の(もちろん放送当時の)芸人が伝説の芸人を演じるってのも話題になってたけど、ビートたけしは見せ場が少なく、ポール牧役の陣内孝則は始めから似せる気なし。もっとも良かったのが謎の多い泉和助って芸人を演じた堺正章で、見事にボードビリアンの動きを再現していました。しかし、本当、マチャアキだけ。

とくにいただけなかったのが萩本欽一を演じた小堺一機と坂上二郎を演じた片岡鶴太郎で、いやいや、似てる云々ではなく、これってただのモノマネじゃん、と。
まァ、このふたりをキャスティングした時点でモノマネになるのはわかってるんだから、いわばキャスティングミスなだけだけど、言ってもこれはドラマなんだからさ。演出も「絶対にモノマネにならないように」気を配るべきだったし、小堺一機も片岡鶴太郎も自主的にでも抑制すべきだったと思う。

何でモノマネになっちゃいけないか、これは簡単な理由です。
モノマネというのは演芸です。あくまで「笑ってもらうために」やる芸であり、演劇的に「似せる」のとは似て非なるものです。何故なら演劇(ドラマや映画も含まれる)は似てるか否か、笑えるかどうかは何の尺度もない。むしろ「似ている→面白い、笑える」となってしまっては芝居の邪魔にしかならないわけで、変な誇張はもってのほか、間違っても「登場しただけで笑える」となってはいけないんです。

かといって、まったく似てないのも困る。いやこれがね、歴史上の人物、たとえば織田信長とか坂本龍馬とかなら問題ないですよ。誰もホンモノを見たことがないから。
しかし歴史上でない、一定以上の年齢の人なら記憶にあるような人物に扮するとなったら、まるで別人でも困るわけです。この辺のさじ加減が難しい。
アタシがアッと言ったのは1989年に放送された「シャボン玉が消えた日」において青島幸男に扮した萩原流行で、容姿はまったく似てないにもかかわらず、喋りはじめたら青島幸男に見えてくる。でもけしてモノマネではない、という実に微妙な線を突いていて、役者ってのは凄いものだな、と感服したことを憶えています。

さて、小松政夫の著書を原案にしたドラマ「植木等とのぼせもん」が放送されました。
このドラマの場合、精神的主人公である小松政夫はまったく似せる必要がない。そもそもドラマの冒頭でご本人が解説をやってるんだから、下手に似せようとしたら違和感が生じるだけです。
それに「我々の知らない、駆け出しの頃の小松政夫」の話なんだから、似せたとしても意味はないわけです。
しかし植木等は違う。いや他のクレージーキャッツのメンバーもなんだけど、植木等以外のメンバーは「だいたい」でいい。むしろ似てる云々は「だいたい」にして、それより実際に楽器演奏が出来るメンツを揃えたスタッフには感心しました。

で、植木等です。いや山本耕史か。アタシが植木等を敬愛している、というのはしつこく書いてるから「だったらメチャクチャ違和感があったでしょ」とか思われるかもしれないけど、これがまったく逆でね。
もうアタシくらいになると、脳内で自由自在に植木等の声や動きが再現できるレベルなわけでして、そんなアタシから言わせると「植木等を真似られる役者なんて世界中探しても存在しない」ってわかってるから。つまり最初からハードルがものすごく低い。よっぽどでない限り「ああ、この役者の植木等像はこんな感じなんだ」と笑って見てられます。

そもそも植木等のあの声は唯一無二で、絶対に似せられるわけがないのです。だからかモノマネする人も少ないし、たまにいてもまったく似ていない。
一時期ボーカロイド(初音ミクとかああいうの)の植木等版「植木ロイド」を作ろうとしてたみたいだけど、これも酷い出来で、単に声質だけをサンプリングしても無駄なのです。
そんな中、このドラマの山本耕史はかなり善戦したといえます。植木等本人にはまったく見えないけど、モノマネになってないし、ちゃんと植木等役であることはわかる程度には寄せている。これはたいしたもんだなと。少なくとも小堺一機と片岡鶴太郎がコント55号をやったのよりはるかにレベルが高い。

本エントリで書くには長すぎて割愛しますが、わりと努力だけではどうしようもない、ただ一点(といっても声じゃないよ)以外は、アタシは文句をつけようがありません。
これは山本耕史の演技云々ではなく演出なんだろうけど、さすがに植木等をマジメ人間に描きすぎだと思うけどね。ま、小松さんが監修していてあれでいいと言ってるんだろうから、アタシから何か言うことではないんだけど。
たぶんこの出来なら植木等に興味がない人でも楽しめたと思う。もちろんマニアならニヤッと出来るシーンも散見できるし(「ニッポン無責任時代」や「ニッポン無責任野郎」、「日本一のホラ吹き男」の再現はかなりレベルが高かった)、何よりケッサクなのが映画監督の古澤憲吾に扮した勝村政信で、モノマネにならないギリギリでよくあのテンションの高さを再現しています。

こうなったら古澤憲吾でスピンオフドラマを作って欲しいわ。タイトルはもちろん「シュートする!!」
・・・やるわけないけどさ。

マジやるわけないっつーかやれるわけないっつーか。
古澤憲吾のような完全な右寄り、んで右寄りだからこそのオカシサをどうやって令和の日本でフィクションに出来るんだよ。つか古澤憲吾のドラマならテーマ曲は「軍艦マーチ」にするしかないわけで、そんなの無理に決まってんだろ!




@Scribble #Scribble2017 #フィクション #テレビドラマ @クレージーキャッツ 単ページ ゴールデンボーイズ コント55号 モノマネ シャボン玉が消えた日 萩原流行 植木等とのぼせもん @小松政夫 山本耕史







Copyright © 2003 yabunira. All rights reserved.