楽曲としては文句なしに名曲といえるレベルながら、いろんな条件が重なって歌い継がれなくなったものは結構あります。
とくに、いわゆる人気的な面で末期のアーティストが発表した曲は、楽曲自体が相当なクオリティだったとしてもアーティストとして「終わってる」と世間的に見られてしまうので、埋もれることが多い。
もちろんセールス的にはそこまで酷くない場合が多いんです。少なくとも凡百の泡沫アーティストとは(あくまで売り上げにかんしてですが)比べるべくもない。
でも他に大ヒット曲があったりすると埋もれてしまう。○○のヒット曲といえば△△だよね!□□?ああ、そんなのもあったね、で終わってしまうっつーか。
キャンディーズでいえば、ま、大抵は「春一番」とか「年下の男の子」とか、せいぜい「微笑がえし」になるわけで、個人的に名曲だと思う「わな」なんかを挙げようものならマニアック扱いされます。
言っても「わな」はシングルカットされた曲だし、ベストテンに入る程度には売れている。アルバムにしか収録されていないとか、コンサートでしか歌ったことがないレベルのマニアックさはどこにもない。
それでもキャンディーズと聞いて、いの一番に「わな」を挙げる人が稀なのは間違いない。
ピンクレディーでいえば、駄作扱いされている「モンスター」が一番好きなんです。これもちょうど人気降下期の楽曲なんで(とはいえ売り上げは凄かった)、それまでの「UFO」とか「サウスポー」とか、「モンスター」の次作の「透明人間」とかの文字通りモンスター級の知名度からすればだいぶ落ちる。こういうのもマスキング効果とでもいうのかね。
それ以外にも、不祥事云々で名曲扱いできない、なんて楽曲もあります。
「エイトマン」(テレビアニメ「エイトマン」主題歌)は歌唱の克美しげるが逮捕(ってレベルじゃないけど)され、事実上芸能界から抹殺されたために忘れてもらわなきゃ困る曲になってしまいました。
しかし「エイトマン」は「スーダラ節」をはじめとする植木節の作編曲など、クレージーキャッツの音楽面での最重要ブレーンだった萩原哲晶の作編曲、放送作家、そしてタレントしても一時代を築いた前田武彦の作詞による楽曲は実にクオリティが高い。名曲とすることに異論を挟みようがないレベルなのですがね。
しかもこの曲、克美しげるに加えて前田武彦もある時期テレビ界からパージ状態だったとか、原作の作画を担当した桑田次郎も逮捕なんかされたりして、二重三重の事情もあるし。(余談ですが、マエタケ氏は「エイトマン」のメロディを大変気に入っており、着メロにしていたほどだったらしい)
えらく前置きが長くなってしまいましたが、今回の「WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーヴメント」も、もしかしたら「もう人々の記憶から消えかけていた」かもしれない、と思うのです。
主問題はもちろんコンポーザー側の小室哲哉にありますが、逮捕とか借金とか、そんなことを言い出したら1990年代のヒットチャートを賑わせた曲がほとんど封印になってしまうわけで、実はそれはたいした問題ではない。
それよりダウンタウン浜田と小室哲哉の関係が拗れたり(真偽は知らんけど)、何より浜田が積極的に歌いたがらなかったことの方が大きいはずです。
Wikipediaによると、2000年代に入ってからもカラオケという体で歌ったり、記憶が曖昧だけど、年始の特番「ドリームマッチ」でロンブー淳とコントをした時も短いフレーズとはいえ歌ったりはしていた。けど、一応は「H Jungle with t」名義でやってたわけで、浜田と小室の二人が揃って、でないとあんまり意味がないのです。(もちろんM Jungleもね)
ところが2014年の「HEY!HEY!HEY!」の特番で遂に実現した。某ようつべさんで今も見ることができますが、これがもう、感動的なまでに凄かったわけで。
※現注・せっかくなんで動画を貼っておきます。消されてたらそれまでだけど。
おそらく、もしこの時「WOW WAR TONIGHT」を歌ってなかったら、終ぞ<唄>にはなれなかったと思う。逆にいえばこの時歌ったから<唄>になることができたと。もう、ホント、このタイミングしかなかった、というか。
いつぞやの「ごぶごぶ」で、浜田は小池徹平の「もう歌わないのか」という質問に、あきらかに乗り気でない答え方をしていました。たぶん浜田自身、別に自分は歌が上手いとか思ったりしたことはないはずで、勢いのある若い頃ならともかく、今更この歳になって本気で歌っても、というのを垣間見せていました。
しかしそれはあまりにももったいない。2014年の「HEY!HEY!HEY!」の時も痛感したけど、やっぱり浜田は唯一無二の<声>を持っている。上手い下手を超えた、人の心を揺さぶる声、というか。
前も書いたけど、個人的にはネクストシングルの「GOING GOING HOME」の方がクオリティは高いと思う。鼻唄としてなら「GOING GOING HOME」の方が優秀だと思うし。
けど、「WOW WAR TONIGHT」は楽曲のクオリティとか浜田自身の歌唱の「こなれてなさ」といったマイナス要素を全部吹っ飛ばす「あの時代の後押し感」があるんです。小室サウンド全盛期というだけでなく、ダウンタウンの勢いとか、時代の空気とかね。
それは付け足そうとして付け足せるものじゃないわけで、やっぱ、全部をコミコミにすると、「WOW WAR TONIGHT」は文句なしの<唄>なんですよ。