またまた、というか、まだまだ、という感じで、阪神は見事なまでに好調をキープしています。
しかし今年のチームは楽しいわ。たしかに昨年に比べたら若手の躍動はないんだけど、逆に今はそれが伸びしろに思えるからね。マジで若手三銃士が調子を上げたら手がつけられなくなるよ、みたいな。
先週、例の大逆転勝利の試合を取り上げて「中田廉はけしてコントロールを乱して原口に四球を与えたわけではない」と書きました。
今年の阪神の一番すごいところは、とにかく四球をもぎ取る力があるんです。一部ではかつての近鉄の「いてまえ打線」をモジって「歩いてまえ打線」とか「見てまえ打線」とか言われていますが、相手がコントロールを乱してなかろうが、選球眼がさほど良い選手でなかろうが、とにかくチームとして無理矢理四球をもぎ取ってしまう。それだけ塁上をにぎわすってことになるんだから、そりゃ得点が入りやすいのは当然です。
そして何より一番デカいのが「阪神は何とかして四球をもぎ取ってくるぞ」ってイメージが、対戦チームにも、ファンにも、そして審判まで染み付きだしたんじゃないか、ということなんです。
ずいぶん昔の話になります。
1985年、というと阪神タイガースが唯一日本シリーズを制した年ですが、アタシには忘れられない試合があります。
それは勝った試合じゃない。やられた試合です。
イニングとか点差とかは忘れたけど、たしか8回か9回二死で同点の場面だったと思う。場所は甲子園、対戦チームは広島でした。
どの塁が埋まっていたのかも憶えてないけど、三塁にはランナーがいました。打者は鉄人といわれた衣笠祥雄。
衣笠は勝負強く長打力がある打者でした。反面少し粗いところがあり、三振も狙えるし、ポンと打ち上げることも多かった。
当然野手は深めに守ります。今と違って当時の阪神は内野も外野も堅かったので、フライにさえ取れればチェンジ、そんな場面でした。
ところがあろうことか、衣笠はセーフィースクイズをやってきた。深めに守っていた内野陣は対応できず、一塁はセーフ。広島に得点が入り、阪神の反撃も及ばず負けたのです。
まさか衣笠がセーフィースクイズとは、とは思うのですが、実はその数年前にも似たような状況で衣笠にセーフィースクイズをやられたことがあった。
この試合以降、とにかく衣笠が嫌で嫌でしかたがなかった。何をやってくるかわからない、とファンが思うのは当然としても、内野も長打警戒の深い守りができなくなった。
実際、セーフィースクイズなんて、そう何度もやるもんじゃないし、その後はやってないはずです。しかし「もしかしたらまたやるかも」というね、ほんの少しでも頭をよぎるだけで、思い切った守備陣形が敷けなくなるし、ファンの不安も増大する。本当にやる気はなくても、ちょっと衣笠がバントの構えをするだけでも疑心暗鬼になる、という。
たった一度でいいんです。たった一度でも「ここのチームはこんなことをやってくる」と思わせるだけで、相手チームは余計なことを考えるようになる。
その結果、精神的な有利不利が出る、という話でして。
今年の阪神でいえば四球です。
広島の成績を見ればわかりますが、たしかに防御率はボロボロとはいえ、そこまでコントロールが悪い投手が揃ってるってわけでもない。はっきり悪いといえるのは加藤くらいでしょう。
事実、阪神以外のチームへの与四球数はふつうです。ところが阪神にだけ与四球数が際立って多い。もちろん開幕二戦目のトンデモ四球合戦が含まれた結果ですが、それにしても広島は阪神にたいしてだけは四球を出しすぎています。
当たり前ですが、阪神戦になるとみんなコントロールを乱すというわけではないんです。でももう、広島の投手陣に「阪神の打者はとにかくボールをよく見てくる」という先入観があるんじゃないか。そんな先入観があればストライクゾーンで勝負しなければ、という意識が生まれて余計際どいところに投げようとする。結果、さらに四球が増える、と。
広島だけじゃないですよ。昨日のDeNA戦もそうで、DeNAの投手陣に「阪神の打者はボール球を振らない」という先入観が絶対あったと思う。
しかもそれは対戦チームだけじゃないんです。審判もなんですよ。
とくに鳥谷や糸井の打席なんか顕著だけど、審判にさえ「彼らが追い込まれた状況で、際どいコースを見逃すはずがない」というね、刷り込みができ始めているんじゃないかと。
反対にいえば、藤浪なんかストライクゾーンに投げ込んでもボール判定をされやすい。コントロールの悪い投手特有の不利さがあるんだけど、これまたしょうがないし、過去にも阪神に限らずそういう投手は山ほどいたからね。
しかしチーム単位で「ここのチームはボール球を振らない」と思われるチームなんて初めてなんじゃないかね。
こういう先入観はシーズンが終わるまで続くと思う。やる側にさほど意識はなくても、やられた側はいつまでも覚えている。そういうものです。
ただプロ野球が面白いなァと思うのが、シーズンが変わったら見事に先入観がリセットされてるんですよ。
黒田が引退してジョンソン中崎不在とはいえ、今の広島に強力投手陣と思うファンも対戦チームもないと思うし、逆に阪神にも貧打のイメージはないんじゃないかな。
ま、ファンはしつこくいつまでも先入観にもとらわれていて、というと言い方が悪いけど、衣笠のセーフィースクイズだってファンの方が「前もおんなじことされとったやないか!」って怒ってたくらいだから。
いまだに「阪神は貧打」とかいうファンも多いし、もっと極端なことをいえば黄金期が過ぎて20年くらい経ってるのに、西武ライオンズを絶対王者って思ってる人がいるくらいだから。
いったいファンはいつになったら先入観をリセットできるのかね。つかアタシだってプロ野球を見始めた時(1976年)の順位「巨人、阪神、広島、中日、ヤクルト、大洋(DeNA)」が「本当の強さ順」と思ってるフシがあるからエラソーにはいえないんだけど。