これだけの話
FirstUPDATE2017.5.9
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先日、NHKBSプレミアムで放送された「べっぴんさん」のスピンオフドラマ「恋する百貨店」を見てね、かなりぶっ飛んだんです。

いやぁ、今時こんなピュアなシナリオがあるのかなっていう。ピュアってのは稚拙って意味でも内容的に初々しいってことでもない。とにかく、ここまで愚直に、基本をしっかりなぞったようなドラマとか、最近とんと見てなかったからね。
もうこのブログでしつこすぎるくらい「王道の有用性」について書いてきました。
王道でもルーティーンでもいいんだけど、古来より練り上げられたものは大いに活用すべし。せっかく先人たちが積み上げてくれたものなんだから、利用しない方が損ってもんです。

そこに時代性や作家性を加味する。それだけで十分一人前の作品になる。なるんだけど、下手にプロだの一流だのと称している人たちは嫌がりますからね。ま、本当のプロや超一流は嫌がらないんだけど。
基本が出来て初めて応用がある。当たり前すぎる話です。ドラマや映画でいえば基本的な作劇が出来ないのに基本から外れた作劇が作れるわけがありません。
ただ、基本は基本として作れる、となったら基本を土台としても使わないようになるような。それは良くないんじゃないの?と。

「恋する百貨店」は恐ろしいほど基本に忠実なドラマでした。
脚本は本編を書いた渡辺千穂ではなく坂口理子って人です。同名の子がHKT48にいるみたいだけど、もちろん「アイドル兼任脚本家」ではありません。まったくの別人です。
年齢的には中堅くらいだと思うだけど、正直知らない人だった。だからてっきり新人というか渡辺千穂の弟子かなんかで「とにかく基本に忠実に書きなさい」と指示されたものかと。(Wikipediaによると渡辺千穂と坂口理子は同い年だった)

どこがどう「基本に忠実」だったか、いちいち書いていきます。
これはスピンオフドラマですから、キャラクターを一から説明する必要はありません。本編を見ていた人だけが対象だろうし、別に「わからん人はほっときますよ、義務教育やないんやからね。ツルルッツ、ギョッ!ギョッ!」で問題はありません。
スピンオフで主役となるのは、本編では完全に脇役だった小山という人物です。最初は軽い敵役みたいな感じで登場して、後に敵役ではなくなったものの基本人間味のない嫌味なキャラクターでした。

さてスピンオフの内容です。
まず小山の「人間味のない嫌味な」キャラクターを強く印象付けするエピソードからドラマが始まります。(厳密にはその前にプロローグがあるけど)
ま、本編の放送終了からひと月経っているので「おさらい」の意味合いもあるのかもしれないけど、ドラマを展開していくにあたって、この念押しは非常に重要なのです。
ここで「小山なんて人間は感情移入できる余地のない、嫌な奴だ」とまず印象付けする。そしてターンポイントから小山の人間性が少しずつ変わり始め、視聴者に「いつの間にか」嫌味な「はず」の小山に感情移入、というか「小山頑張れ!」っていうね、ま、応援ですね。をさせるように持っていっているんです。

そして中盤にひとつ目の「ヤマ」を持ってくる。お見合いブチ壊しシーンです。
お見合いブチ壊しってのはシチュエーションコメディの定番というかルーティーンであり、変な言い方ですが、お見合いブチ壊しはよほど下手を打たない限り面白くなります。
型通りの色悪を配したり、ヒロインが怒りを爆発させたり、ここもシチュエーションコメディの基本に忠実に倣っています。

そして一気にハッピーエンドに向かわせるのかと思いきや、逆にトーンダウンさせてしまう。この辺も基本なんだけど、展開のさせ方が上手く成功しています。
この後、小山の間抜け(なんだけど非常に人間味溢れる)なシーンから入院→最大の「ヤマ」(=クライマックス)、という流れは完璧すぎます。
本編の方で結末を割ってしまっているので、本来スピンオフではストーリーは楽しめないはずなんです。だけれども王道的展開でこれでもか!と押し切ることによって、ちゃんと主役に「途中から」感情移入できるようになっていた。それが凄いんです。

しかし考えてみれば、大向こうに凄いことは何もやっていない。目新しいことも画期的なことも、このドラマにはありません。
しかし愚直なまでに基本に忠実、というだけで、最後まで楽しめたわけでね。
先ほどアタシは「王道に時代性や作家性を加味して」と書いたけど、このドラマにかんしては加味すらしていない。
だからそういう意味では「王道をなぞっただけ」という批判は成り立つんです。成り立つんですが、じゃあつまらなかったのか、というと面白かった。

この「面白かった」ってのが重要でね。
結果的にであろうが、面白ければ勝ちなんですよ。これよりつまらないドラマなんか星の数ほどあるわけで「あんなもん王道そのままじゃないか」と言われようがなんだろうが「だったらアンタも王道を使えば良かったのに」としか言えないわけで。何で使わなかったの?プライド?脚本の面白さよりもプライドを優先させたんでしょ?と。
今回アタシは改めて王道の強靭さを見せつけられた思いでした。こんなもん半端な目新しさや画期的さじゃ太刀打ちできないよ。

先人たちの蓄積は利用するためにあります。もちろん蓄積から目を逸らして我が道を極めるってのもアリです。だけれども本当にそこまでの覚悟で王道から目を逸らしてるんでしょうかねぇ。







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