1950年代的幸福感
FirstUPDATE2017.5.3
@Scribble #Scribble2017 #1950年代 #テレビ #レトロ 単ページ CM コマソン 三木鶏郎 @中村メイコ 森永 やっぱり森永ネ

三木鶏郎といえば「ほどほど」のアクのあるメロディを作ることが実に長けた人だったとつくづく思います。

この「ほどほど」さがテレビ黎明期のテレビCMにぴったりハマった。CMソング、当時は略してコマソンなんて言ってましたが、企業イメージを損なわない、かつ耳に残ることが必要なコマソンにおいて「アクは絶対に必要だけど、強すぎてもいけない」という条件を見事にクリアしてるんだから、そりゃコマソン=三木鶏郎、というイメージになって当然ですよね。

しかしコマソンだけが三木鶏郎ではない。「鉄人28号」や「ジャングル大帝」、「トムとジェリー」といったアニメの主題歌、アタシが大好きな戦前派のコメディアン・岸井明の哀感を上手く活かした「涙はどんな色でしょか」、センチメンタルな「ゆらりろの唄」、コミックソングの傑作「僕は特急の機関士で」などなど、本当は幅広いジャンルに対応できる人なんです。

でも三木鶏郎といえばやっぱりコマソンになってしまう。それだけ膨大かつレベルの高いものを作り続けたんだから、これはもうしょうがないわけでね。
正直、三木鶏郎のコマソンから一曲を挙げるのは難しい。アタシはリアルタイム世代でない分コマーシャル自体には思い入れがないわけで、純粋に楽曲として鑑みると「どれもレベルが高くて好きだけど、これ、という突出した曲はない」状態なんです。
そんな中で、どうしても、となると、コレになるんじゃないかと。

三木鶏郎はエノケンや岸井明といった戦前派の人を上手く活かす術を持っていました。
岸井明にかんしてはアタシが先ほど挙げた「涙はどんな色でしょか」くらいしか知りませんが、エノケンにはかなりの楽曲を提供しており、戦後に発売したエノケンソングでは最高傑作の「これが自由というものか」や、映画の挿入歌でいえば「チンチロリン・サンバ」(♪ うちによーめさん来ーるそうな~ってやつね)なんかも良く出来ている。
もうひとり、この人は戦前派といえるか微妙なのですが、戦前から子役として数多くの映画や舞台で活躍した中村メイコという人がいました。(存命の人に過去形は失礼だけど)

話は逸れますが、子役時代の中村メイコのヨサは、一応ビデオになっている作品でいえば「江戸ッ子健ちゃん」と「孫悟空」を観れば一目瞭然です。
こまっしゃくれた感じがまったくなく、器量がいいわけじゃないのに、実に子供らしいナチュラルな可愛らしさに溢れている。
中村メイコは大人になってからも、子供の可愛らしさの表現を保持することができた。ずっと後年に作られた藤子不二雄A作「パラソルヘンべえ」で主役のヘンべえの声をアテていましたが、すでに妙齢だったにもかかわらず、子供の可愛らしさを見事に表現していましたからね。

「やっぱり森永ネ」はテレビ黎明期に製作されたCM及びコマソンで、作が三木鶏郎、歌唱が中村メイコです。といっても複数バージョン作られたようで、どう聴いても三木鶏郎が歌っているとおぼしいフィルムも現存しています。(三木鶏郎の歌声はわかりやすい。とはいえ色川武大の指摘通り、どうも三木鶏郎の声はくぐもっていて良くないんだけど)
CMでは、というか映像では「男の子が今日幼稚園であったことを夕食時に回想している」という設定です。ですから中村メイコは幼稚園児の男の子を演じ歌っていることになるわけですが、これが、まァ、実に良い。

もっとはっきりいえば泣けるんです。別に泣けるような内容じゃあ、ないんだけど、あまりの平穏感と1950年代的幸福感に涙が出てくる。
不思議なのが三木鶏郎バージョン(お父さんバージョン)も同じメロディで歌っているんだけど、これは別に泣けやしない。フツーのほのぼのコマソンで止まっている。
ところが中村メイコバージョンはぜんぜん違う。子供目線というのもあるのかもしれないけど、やっぱり中村メイコの歌というより演技に泣かされている、としか思えないわけで。

♪ 晩のご飯は楽しいご飯 みーんな集まってニコニコ顔に
 お目目まん丸鼻膨らませ 坊やが「アノネ」と話し出す~

いつだったかな、ま、いろんなことがあって、ものすごく落ち込んだことがあったんですよ。
そんな時、ホントに偶然「やっぱり森永ネ」を耳にしてね。もうこの時ばかりは泣けて泣けてしょうがなかった。
アタシは1950年代や、他の過去の時代にも幻想は持っていません。あの時代が良かった、とか、あの時代に生まれたかったってのも、とくにない。今だから「あの時代のヨサ」がわかるわけでね、その時代で育ってしまうのとは別です。(もちろん一時的にタイムスリップで行ってみたいとは思いますが)
だから1950年代的幸福感への憧れもないんだけど、この歌にはそれを超越した「何か」があるんです。

三木鶏郎は相当な変人で、色川武大によれば「仲良くなった順に嫌いになる」という癖があったといいます。
そんな三木鶏郎が、いやむしろそんな人だからこそ、完全無欠の幸福感を表現できたんじゃないかな。当然中村メイコという元天才子役の力を借りて、なのですが。







Copyright © 2003 yabunira. All rights reserved.