「氷雨」とテレサ・テン
FirstUPDATE2017.4.4
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こないだ「北の宿から」のことを書いた時におもったんだけど、最後にヒットした演歌って何なんだろうか、と。

こんなことを書くと、今だって演歌のヒット曲はある、と反論されるに決まってる。
三山ひろしや山内惠介のような若手演歌歌手もいるし、それこそ氷川きよしだって結構ヒット曲はあります。
しかしそれらの曲が「一般のフツーの人が知っている」かといえば、やっぱり違うと思うんですよ。ま、そりゃね、「きよしのズンドコ節」とかは知名度はあるけど、1980年代前半以前のヒットの仕方と、何か、どうも、違う。

「北の宿から」のエントリでアタシは「この頃までは演歌と歌謡曲の境目が曖昧だった」みたいに書きました。
もっというなら、この頃に「特殊ジャンル」と言えたのは、クラシック、ジャズ、フュージョン、メタル、実際はもっといろいろマイナーなものはありましたが、少なくとも一万枚以上出荷するようなメジャーなバンドのロックとかニューミュージックあたりは、演歌や歌謡曲とさして変わりがなかったと思う。
何つーか、音楽は音楽であり、もっと分け隔てがなかった気がするんです。

それが1980年代に入ったくらいからかな、音楽内差別が出てきた。
純ロックや純ジャズをやっているような人たちがあからさまに歌謡曲や演歌を馬鹿にする言動を取り始めたのです。
歌手やプレイヤーのみならず、聴き手にもそういう風潮が生まれた。歌謡曲や演歌を聴いている人間なんか馬鹿にしても大丈夫、という風潮です。
ま、いろんな事情があったとはいえ、これは失敗だったと思う。歌謡曲や演歌は大衆化の極致だから馬鹿にしやすいんだけど、そういうことを繰り返していくと間口が狭くなってしまう。
今は変な時代で、演歌は演歌として、歌謡曲は歌謡曲として認めよう、みたいになってるけど、それは演歌も歌謡曲も「特殊ジャンル」になってしまったからです。

つか今ある音楽ジャンルって、多少メジャーマイナーの差こそあれ、全部特殊ジャンルでしょ。つまり老若男女問わず、誰もが聴ける音楽ジャンルなんて存在しない。
あれ、今になって思えば、何で1980年代の時点で「歌謡曲や演歌はそのままメジャーなものとして残しておかなければならない。メジャーがあるからマイナーが光るんだ」みたいな発想になんなかったのかなぁ。
つか何にでもいえることだけど、スノッブぶってメジャー=ダサい、みたいな風潮って結局自分たちの首を絞めるだけなんだよね。

話が逸れてしまいましたが、まだ演歌や歌謡曲がメジャーなものだった時代、正確には時代の終わり付近てことになるのですが、アタシが見立てるに最後の演歌のヒット曲は「氷雨」ではないかと睨んでいるのです。
この曲が作られたのは1977年らしい。んでヒットしたのが1983年。さすがにキチンと「1977年に作られた曲が6年後にヒットした」とは知らなかったけど、当時から結構前に作られた曲だった、くらいの情報は知ってました。
何で知っていたか。簡単です。歌番組でそういう情報が紹介されてたから。

歌番組っつっても高齢者しか見ないNHKの番組じゃないよ。当時の若者がこぞって見ていた「ザ・ベストテン」とかそーゆー番組。そんな番組にも「氷雨」はランクインしてたし、佳山明生も出演して歌っていた。
それだけで、三山ひろしや山内惠介、そして氷川きよしとも決定的に違うってのがわかってもらえるんじゃないかと。この辺の今の演歌の人たちが「ミュージックステーション」あたりの番組に何度も続けて出る、なんてちょっと考えられないからね。

では「氷雨」以降、こんな感じで「若者でも知っている」感じのヒット曲はなかったのかってことですが、まァ「長良川艶歌」(五木ひろし)とか「娘よ」(芦屋雁之助)とかもあったけど、どうも「氷雨」とは感じが違う。もうアタシの感じ方の問題なので正しいとかではないのですが、少なくともアタシは「氷雨」は鼻唄でワンコーラスくらいは歌えるけど「長良川艶歌」や「娘よ」になるとワンフレーズくらいしか歌えない。
つまり「氷雨」が最後のヒット曲、というよりは「氷雨」がヒットしたあたりが「演歌が本当の意味でメジャーな存在」から「一部の愛好者のためのもの=特殊ジャンル」になった分岐点なんじゃないかと。

メジャーな存在だった演歌とちょうど入れ替わるように登場したのがテレサ・テンの一連の楽曲です。
テレサ・テンのデビューはもっと早いんだけど、ゴタゴタがあって日本で再デビュー、そして「つぐない」がヒットしたことによって地位を築くことができた。
しかしテレサ・テンは演歌ではない。かといってムード歌謡とも違う。もう「ジャンル=テレサ・テン」としか言いようがない。テレサ・テンが好きな人が演歌も好きかといえば違うし、逆もまた然り。
アタシはね、演歌自体はそれほど嫌いではないんです。もちろん積極的に聴くようなことはないけど、いっても幼少期に演歌全盛期を体験しているので、嫌悪感というか排除したい存在ではありません。

しかしテレサ・テンは別です。
一度、仕事先の人のクルマに乗せてもらった時、カーステで延々テレサ・テンを聴かされた時はマジでアタマがオカシクなるかと思ったくらい。嫌悪感があるかないかでいえば、これは間違いなくある。
考えてみれば、テレサ・テンほどの特殊ジャンルもないと思う。下手したら超マイナーな音楽(例えば民族音楽のような)ものよりも特殊なのかもしれない。
しかしたったひとりでジャンルを築いたって意味ではテレサ・テンは本当にすごい。いくらアタシに嫌悪感があろうとも、そこは素直に認めざるを得ません。
もう亡くなって相当経つのに、いまだにテレサ・テンはテレサ・テンというジャンルの中にいるし、熱狂的な人もいる。(アタシがカーステで聴かされたのも死後10年近く経った頃だった)

そう考えると、もしかしたら石原裕次郎や美空ひばりに比類すべき存在なんでしょうか。いやそうだとしてもアタシは今後も聴く気は一切ないんだけど。







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