えと、今やってる朝ドラの話なんだけど、ま、あとで読み返してもわかりやすいように書いておくなら、2016年度下半期の「べっぴんさん」についてです。
ドラマ全体については今度まとめてちゃんと書くけど、実際かなりよくできている。まァ「あまちゃん」や「ちりとてちん」ほどではないけど、個人的には「カーネーション」以上で、十分及第点をつけられます。
「あまちゃん」について書いた時、アタシの褒め方は「丹念に取材・調査しているのが非常によくわかる。その丹念さがドラマの面白さに直結している」というものでした。
今作の「べっぴんさん」も、取材はどうかはわからないけど、かなり綿密な調査をした上で作劇してるのは間違いない。とくに時代背景にかんしては相当念入りにやっているのがはっきり見て取れます。
何度も書いてるけど、アタシは昭和オタクみたいなもんなんで、あまりうるさくツッコんだりはしないんだけど、それでも間違ってたりしたら「あー、それ、違うんだけどなぁ」くらいは思ったりします。
ところが「べっぴんさん」にかんしては、そういうのがほとんどない。戦前の描写にも戦後の描写にも、そりゃドラマなんだからいろいろ簡略化されてたりデフォルメはされてるんだけど、そーゆー描き方をしたら誤解を招く、みたいなシーンがほぼ見られないのです。
それって結構珍しいことで、実際昭和を舞台にしたインチキドラマなんかかなりお目にかかれる。
アタシは細部が気になってドラマ全体が見れない人間ではないので、たとえ舞台背景がインチキでも、ちゃんと没頭できる話でさえあればそれでいいと思っている。あとでちょろっと「あそこ、間違ってたな」と思うくらいです。
何でこんなことを書くのかというと、「べっぴんさん」について、ものすごく間違ったツッコミを書いてる人が多いんです。それも時代背景にかんすることで。
あの時代にそんなものはなかった、とか、そういう類のツッコミです。
しかしネット上の意見をみるに、ほぼツッコミ自体が間違っている。つまり「べっぴんさん」の描写が正しいということです。
たとえば昨年末の放送でクリスマスパーティをするシーンがありました。
一部の登場人物がサンタクロースの扮装をしていたのだけど、この当時(1950年前後)そんな衣装が簡単に手に入るわけがない、と。
ま、この時代に東急ハンズもドン・キホーテもないのに、どこに売ってたんだ、みたいなツッコミだと思うのですが。
そりゃね、パーティグッズとしては売ってなかったですよ。でも、少なくとも「簡単に入手できない」というほどのものでもない。
そもそもですが。
クリスマスを祝う、という習慣が日本で根付いたのがいつくらいからか知ってるんでしょうかね。
ドラマの舞台となった神戸クラスの都市部に限るなら、戦前期、1930年代から普通にクリスマスを祝う習慣はありました。当然戦争で中断されますが、戦争が終わったら何事もなかったかのように復活している。
実際当時の写真を見ても、サンドイッチマンがサンタクロースの扮装をしている写真なんかいくらでもあります。
言っちゃナンですが、サンドイッチマン如きが手に入れられるものが、どういった理由で一般市民が手に入れられないと思うんですかね。
ましてやサンタクロースの衣装なんて赤と白の布があれば誰でも手作りできるくらい簡素なものです。
当時は今よりずっと、裁縫できる人が多かったし、何より舞台となるのが子供服屋です。普段から子供服を手縫いしている人がサンタクロースの衣装とか作れないわけがない。
アタシはね、ドラマにツッコむなとは言ってないんですよ。でも無知からくるツッコミは非常に恥ずかしい。
こう書くと無知の人に失礼だな。いや無知ですらないんです。はっきりいえば「極めて根拠が薄いことを強く思い込んでいる人」ですか。
戦前や戦後すぐなんか、たぶんこんな時代だった、だから、これはおかしいに違いない、みたいな。
ドラマってひとりひとりの思い込みまで換算して作るわけないじゃないですか。その人がそう思い込んでたとしても、事実に則した上でデフォルメを多少かけて時代背景を決めるんです。
そういえば、1960年前後の話で出てきたジャズ喫茶の名前が「ヨーソロー」で、これも実によく考えられていると思った。
江波杏子演じる店の女主人は戦争で夫を亡くした設定になっている。これもヨーソロー=ようそろ、というのは海軍用語、という知識があれば、ああこの人の亭主は海軍に所属していたんだな、というのがわかる。んでたぶん戦地からの手紙に「ようそろ」
という言葉が入っていて、そこから店名を決めたんだな、みたいなね、作中で一切説明されていない設定まで想像できるのです。
他にも細かい時代背景の描写はいっぱいあって、「思い込みの強い間違った知識を持った人」がツッコめるほど甘い描写は皆無といって差し支えない。
ま、ホンマ、その程度の知識で、よーツッコめるわ。ある意味その神経の図太さに感心しますよ。