遊びのある芝居
FirstUPDATE2017.3.6
@Scribble #Scribble2017 #芸能人 #アイドル #映画 単ページ 森繁久彌 木村拓哉 演技

人間の弱点を拡大してみせるほうがね、面白いですよ。


これは小林信彦著「日本の喜劇人」の中で森繁久彌が語った言葉です。小林信彦はサラッと受け流してますが、この言葉は深い。
森繁久彌の言葉をアタシなりに補足するとするなら「(演じていて)面白いですよ」となる。もしくは(役者として)かもしれない。
何故アタシがこの言葉に注目したかといえは、森繁久彌はけして「易しい難しい」で語ってないんですよ。「面白い面白くない」で語っている。
もしかしたら、演じて面白い面白くないが芝居の本質じゃないか、そして役者が「面白い」と思える、数少ない役どころが「人間の弱点を拡大してみせる」ような役なんじゃないかと、ね。

ま、何度も書くように、見てないものについて書くのは性に合わないんだけど、キムタク主演の「A LIFE」ですか、あまり評判がよろしくないようで。
案の定というか、お決まりというか、このドラマをクサす常套句に「相変わらずキムタクをカッコ良く見せるためのドラマ」ってのがあるみたいですが。
んなことはキムタク主演のドラマが放送されるたびに言われてたし、以前も書いたように、アタシは「何をやってもキムタク」という演技を否定していない。それもスタイルです。
ただね、先の森繁久彌の言葉を借りるなら「そんな役ばかりやって、面白いのかな」と。いやキムタク自身がね。

「何をやってもキムタク」と言われるということは、キムタクの演技力云々の前に脚本が、いや企画がそういうふうにね、すでになってるはずなんです。それにたいして「面白くない役だなぁ、役者ってつまんないなぁ」みたいに思わなかったのか、と。
もちろん今までならソロバン勘定があるからさ。「まったく違うキムタク」よりも「何をやってもキムタク」が求められていたってのはわかる。タレントとしてのエゴよりもソロバン勘定を優先させるのは、仕事なら当然かもしれません。
でも今はあきらかに視聴率が落ちてるわけですよね。もう「何をやってもキムタク」はさほど求められていない。ならば純粋に「役者として楽しい」ドラマをやらせるべきなんじゃないかと。

いや、キムタク自身が「面白い役」を求めてないのかもしれないし、「何をやってもキムタク」を求めているのかもしれない。
それに、果たして本当に森繁久彌の言葉、つまり「人間の弱点を拡大してみせるほうが面白い」がキムタクに当てはまるのかはわからない。そんな役はやっててつまらない、いつまでも自分がカッコ良くいることこそ自分がやりたい役なんだ。そしてそれが楽しいんだ、と思っている可能性もあるわけです。
それなら部外者がとやかく言う必要はないんだけど、それはそれで相当悲しいな、と。
もちろんこの人の本職は役者ではありませんが、言ってももう30年ほどドラマに出ているわけですよ。ずっと演技をやってきたわけじゃないですか。
何つーか、欲がなさすぎるんじょないかと。当然「役者」としてね。

アタシがキムタクの演技を買っていた理由のひとつに「演技に遊びがあった」からなんです。
若い頃のキムタクは若いのに似合わず、けして役だけにカッチリハマり込むことはせず、どこかで遊びの部分を持った芝居をしていました。そんな遊びがほんのちょっと予定調和を崩すことにもなっており、何故だかキムタクのドラマは面白いな、となっていたと思うんです。
そういうのがなければね、あんな視聴率は取れないですよ。少なくともひと昔前までは、キムタクドラマを見ているのはキムタクのファンだけではなかった。ごく普通の人が「キムタクのドラマ、ワンパターンだけど面白いよな」みたいな感想を持つ人が多かったんです。

マンネリ、という言葉があるけど、マンネリなのに面白い、つい見てしまう、となる唯一の方法は「主役の演技に遊びがある」ことだと思う。これは「男はつらいよ」を観てもあきらかで、「男はつらいよ」がマンネリなのに観客を集めることが出来たのは渥美清の演技に遊びがあったからです。
渥美清は、アタシはそんなに好きな役者じゃないけど、公平にみれば名優ということになる。でもそんな渥美清でさえ晩年の作品(シリーズ40作目以降くらい)から、病気の辛さもあったんだろうけど芝居に遊びがなくなった。
ただし「遊びがあった頃の幻影」が消える前に渥美清は逝去し、シリーズが終わった。ある意味幸運な結果です。

ではキムタクは、というと、渥美清のように大病を患ったわけでもないのに、いつくらいからか芝居から「遊び」が消えた。妙にピリピリした雰囲気が漂うようになった。まるで最末期の「男はつらいよ」のように。
もうこれって、年齢とか外見とか関係なく、キムタク自身の内面的に「同じような役をやってるだけじゃ、もう遊びは出てこない」と告白しているようなもんで、つまりいろいろ限界にきていると思うわけです。

だったら、ま、さっきも書いたように部外者が口出しする問題じゃないかもしれないけど、そろそろ「何をやってもキムタク」は止めるべきじゃないか、と思ってみたり。







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