古臭い、は誇り!
FirstUPDATE2017.2.25
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最近も、プロ野球黎明期に活躍した、伝説的投手である沢村栄治の投球フォームを分析して「実は160キロ近いストレートを投げていた」なんて記事を見かけました。

「最近<も>」としたのは、こーゆー記事は定期的に出てくるからなんですが、これはいくら冷静に考えてもあり得ない。
野球に詳しくない方のために説明するなら、今まで日本のプロ野球で日本人で、スピードガンで160キロ以上を計測したのは、大谷、藤浪、由規の3人だけ、しかもすべて二十一世紀に入ってからの話です。(現注・今はもっと増えたけどね。つかここ数年でマジ一気に増えた)
もちろんそれまでの時代も豪速球投手とか快速球投手と呼ばれる人は幾多いたのですが、160キロは計測していない。

アタシは戦前のことを調べるのが好きだからわかるけど、トレーニング方法も栄養状態もまったく違う1930年代の投手が160キロを出した、なんて信じられるわけがありません。
ましてや現存している沢村栄治の写真や映像でみる限り、あの体型で160キロは絶対無理です。
だからと言ってアタシは沢村栄治を蔑んでいるわけではありません。やっぱり傑出度は文句なしだったはずで、仮に実際のスピードが130キロ程度だったとしても、まったく彼の傷にはならない。それくらい時代が変わったってだけの話だからね。
その手のことについて、野村克也が面白い発言をしています。

よく聞かれるけど、いつもこう答えてるんだよね。「レギュラーにもなれません。今の野球はレベルが高すぎます」って。 「謙遜しないで」って言う人もいるけど、むしろ自慢してるんだよ。新しい技術や戦略を導入して、プロ野球のレベルアップに貢献してきたことが俺の誇りだから。

これは「もし、あなたが現代野球でプレーしていたら、どのくらいの成績を残せると思いますか?」という質問の答えですが、この返答は面白い。(現注・この野村克也の話は有名なんだけど、実は「実話」というソースがまったくないらしい。ま、ここではそのままにしておきますが)
というのも、野球に限らず「昔の方がレベルが低い」という、若い頃なら誰でも思ってしまう疑問というか心理への最適な答えだと思うから。

青空文庫というものがあります。著作権の切れた書籍等を一括管理して、誰でも気軽に閲覧できるようにするためのプロジェクトですが、当然そこには名だたる文豪の書籍が並んでいます。
面白いと思うのは、名の知られた作家の本の、さらに中でも有名な作品の方が古臭いのです。
これは理由は簡単なんですよ。
面白い、素晴らしい作品、の展開だったりセリフのやり取りは、自然と流用されていくのです。そしてそのうち、それが定番パターンになる。
つまりは名作であればあるほど、似たようなパターンの作品が世に溢れる、ということになります。
これはパクリとは違います。有用なパターンを引用し煮詰めることによって、さらに「深化」される。これも立派な創作です。

話をギャグでいった方がわかりやすい。
たとえば「バナナの皮で滑って人が転んだ」。ま、ギャグはギャグなんだろうし、昔はこれでも良かったのかもしれないけど、今では誰も笑わない。当たり前です。
これが「バナナの皮に滑りそうな人に気を取られてる人が転んだ」に「深化」し、「いけ好かないヤロウをバナナの皮で滑らせるために策を練る」、さらにいえば「バナナの皮で滑った勢いでムーンサルト」とか「自らがバナナの皮になる」くらいまでいくんでしょうか。ま、やりすぎか。

でもこんなシュールなギャグも、最初の「バナナの皮で滑って転んだ」がなければ、何も始まらなかった。今となっては古臭いだけかもしれないけど、フロンティアであったことも疑えない。
逆に、ウケなかったギャグは、このような発展はしない。つまり「深化」しない。古臭くはならないかもしれないけど、浅いところで止まったままってことになるわけです。

1939年に作られた「エノケンの頑張り戦術」という映画で、メチャクチャ熱い温泉に我慢して浸かっているエノケンのところに卵を持った人が現れる。んで卵を温泉にしばらくつけて帰っていく。
カメラが引くと「卵、すぐ茹ります」という看板が、みたいなギャグがあります。(あっという間に卵が温泉卵になるくらい熱いお湯ってことです)

ま、このギャグで笑えるかどうかでいえば、今の人で笑えるという人はほとんどいないでしょう。
それはこの手のギャグが定番になって深化したからです。

詳しくは忘れたけど、「ドリフ大爆笑」の中で、これの発展形みたいなコントを見た記憶があるし、そういえば「エノケンの近藤勇」(1935年)での「BGMのボレロと登場人物の動きが完全に合ってる」みたいなギャグも、「8時だョ!全員集合」のチョットだけョコントで発展形をやってたしね。
だから「古い」とか「レベルが低い」と言われた創作者は誇りに思っていいと思う。それだけ後世に伝えられて発展してきたって言えるんだから。
逆にいえば「今見ても新鮮」といわれる昔の創作物がありますが、これは本当に凄いのかどうかよくわからなくなる。だって定番化できなかったってことでしょ?

ま、有名でないだけで、なんてことも多いから一概にはいえないけど。