平成のなべおさみ
FirstUPDATE2017.2.10
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アタシはずっと「阿部サダヲは平成のなべおさみだ」と思ってんだけどさ。

阿部サダヲのことはとりあえず置いといて、なべおさみの話をします。
はっきりいって、現今、なべおさみほど過小評価されている人もいないと思っている。
理由ははっきりしているんですよ。渡辺晋と袂を分かったり、息子の替玉受験事件があったり、ま、今は今で「ヤクザ社会と芸能界」というところに注力した書籍を出したりしてますからね。となったら今のテレビでは使いづらいのはよくわかる。(現注・さらに令和の今は、・・・いや、もういいわ)
でも1960年代後半から1970年代前半にかけて、たぶんこの頃がなべおさみの全盛期だと思うけど、今までのコメディアン、役者とは違う、ちょっと類のないタイプの芸能人だったのは疑いようがないんじゃないかと。

なべおさみの映画での代表作は山田洋次が撮った「吹けば飛ぶよな男だが」になるんでしょうが、そしてこの映画はアタシも好きな佳作なのですが、なべおさみの良さが全部でた、とは言い難い。
堺正章とコンビで撮った前田陽一監督の三部作はわりと良さがでてるし、植木等映画の一本「日本一の断絶男」も良い。さらに出番は少ないけど谷啓主演の「奇々怪々・俺は誰だ?!」のなべも面白い。
つまり、なべおさみという役者の良さは分断された形でしか発揮されていないんです。

唯一「結構全部詰まっているな」と思えるのが「青春ヤスダ節」というレコードです。
もちろん「シャボン玉ホリデー」のキントト映画コントから着想された曲ですが、宮川泰の芸術的ともいえるごった煮ミックストラックと、下品ながらも哀感のある歌詞、そして脳の血管が切れそうなほどハイテンションで「ヤスダ~!」と叫ぶなべおさみは素晴らしいほど輝いている。
しかし、ま、これはレコードだからね。できるならやっぱり映画で「なべおさみ<すぎる>」作品を作って欲しかったな、と。

なべおさみの最大の魅力は小味なところです。
若い頃のなべは谷啓の味を真似ようと苦心していたようですが、谷啓はいくら小味な感じでやっても、本質的にスケールが大きい。それは谷啓という人の本質である幼児的異常感覚が狭いところでは収まりきれないからです。
ところがなべはそういうところがない。
どこまでいっても軽くてフラフラしている。そういう小物感は経験を経ることによって消えていくものだけど、なべはずっと、というか今でも重鎮という感じがしない、軽い存在です。
だからね、いつまで経っても落ち着きのない老人なんて役なんてぴったりハマりそうなんだけど、先に書いたような理由で、メディアに出てくるのが難しい。
もったいないと思うんだけどねぇ。

阿部サダヲは「まるでなべおさみ作品のリメイクをやるために生まれてきたんじゃないか」と思えるような役者です。
小味で、何をやってもサマにならない役でこそ輝く。さらに何かのきっかけでハイテンションで叫ぶようなこともやる。
この人はコメディアンではないので、バラエティ番組なんかにでるとなべおさみとはまったく違うのですが、少なくとも役者という面においては、たとえば「吹けば飛ぶよな男だが」を阿部サダヲでリメイクしても何の違和感もないくらい、いろいろ被ります。

しかもこの人には宮藤官九郎という、阿部サダヲのすべてを掌握した名伯楽がいるので、なべおさみのキャラクターをそのままに「なべおさみを超える存在」にまでなり得る存在です。
以前ちょっとだけ触れた小林一三の伝記ドラマの主演が阿部サダヲでしたが、正直向いてない役なのですよ。「なべおさみが小林一三役をやる」と思えば余計に不向きな感じがわかると思います。でも思ったより役に馴染んでいて、これは好演といえると思いました。
しかしさ、阿部サダヲの良さを活かしたかというと、まるで活かしていない。「こういうこともできる」というのを証明はしたけど、それだけの話です。

それよりも阿部サダヲには阿部サダヲにしかできないことをやって欲しい。
具体的には「普段は小心者の主人公が、あることをきっかけに狂い、そして哀感溢れる終わり方をする」というね。いわばボブ・ホープ的というかそういう世界で生きる人間です。
別に喜劇の枠組に収まる必要はないですよ。もっとハードな話でもいい。とにかくなべおさみが成しえなかった、もしかしたらあったかもしれないなべおさみのもうひとつの役者人生を体現して欲しい。
時代が違うのは百も承知。でも阿部サダヲならやれるんだから。

というかいい加減、非芸人の喜劇は阿部サダヲと大泉洋(とあと濱田岳か)が引っ張る状況にしないとダメですよ。







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