笑いのなかにし礼
FirstUPDATE2017.1.18
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 いやぁ、もうぜんぜん知らなかったんだけど、去年(現注・2016年)の2月に「ドリフの爆笑! BEST HIT with なかにし礼」なんてCDが発売されてたんですね。

 ま、収録曲はたいしたことがない。「再び全員集合」に収録されているC&W系のカバーが入っているとはいえ、「ドリフだョ!全員集合 赤盤・青盤」を持っている方なら必要ない、と言い切れる<はず>でした。
 しかしこれは、重度のドリフマニアからすれば極めて重要な盤です。収録曲に貴重なものがないのに何故重要かといえばライナーノーツが貴重なのです。
 まずは写真。レコーディング風景の写真はアタシも初めて見たもので、ちゃんと5人並んで歌っているのが嬉しい。

 しかしそれは序の口、というか、一番の目玉はドリフソングの大半を作詞した、なかにし礼のコメントが掲載されていることなのです。
 ま、CDのタイトルに「with なかにし礼」なんてついてるんだから当然っちゃ当然かもしれませんが、なのに何でアタシが驚いたかというと、これまでなかにし礼は「ドリフソングの作詞家」としては何も発信してなかったからなんです。
 ご存知のように、なかにし礼は数多くの著作がありますし、自身の作詞について触れたものもある。なのにドリフソングにかんしては黙殺しており、もしかしたらドリフソングの歌詞を担当したことを「黒歴史」と考えているのかな、とすら思っていたくらいです。

 わずか1ページの短い文章(コメント?)ですが、何故ドリフの作詞をやるようになったかは推測できる文章になっており、ま、井澤健(ドリフと苦楽を共にしたマネージャーであり、のちにドリフの所属するイザワオフィスの創業者になる)と飲み友達だったんですね。
 また「歌で笑わせる」ことへのプライドをにじませているのも素晴らしく、けして売れっ子作詞家の余興というか「やっつけ」ではなかったことを明言しているのは、ファンからすれば嬉しいことです。

 なかにし礼の著作でもほぼ触れられておらず、よくわからないことも多いのですが、一説では一時期、青島幸男の下にいたらしい、と言われています。
 そうして見ると、クレージーキャッツ→ドリフターズ、という流れが、作詞では青島幸男→(門下の)なかにし礼、というふうに移った、ともいえるわけで、しかし青島幸男がクレージーソングで実践してきたのとは違った方法論をとっているのがすごい。
 青島幸男がクレージー用のコミックソングに持ち込んだ方法論は「ナンセンス+風刺」でしたが、なかにし礼はもっとストレートで、笑わせ方がシチュエーションギャグに近い。

 歌詞を書くと某団体からガッポリガッポリガバリとガッポリやられそうなので控えますが、「ドリフのズンドコ節」のいかりや長介のパートの歌詞なんか、二重三重に変で、最初聴いた時なんか「間違えて歌っているんじゃないか」とさえ思ったほどです。
 しかしね、たぶんこれが「なかにし礼の罠」だと思うのです。「炊事」と「ご飯炊き」といった同じ意味の言葉をあたかも違う言葉として続けて使う。当然聴いてる方は「ン?」と思う。
 だけれどもそれがまたフックになるし、ギャグにもなるというね。
 この辺は「百戦錬磨の売れっ子作詞家」ならではの「手」でしょう。

 最近のピコ太郎もそうですが、歌で笑わせるというか歌詞で笑わせる手立てとして、聴き手に「んなことわかってるよ!」とか「さっき聴いたよ!」と思わせるってのがあるんです。つまり聴き手をツッコミにしてしまう、という。
 コミックソングに限らず歌ネタなんか、もうその手のオンパレードでしょ。COWCOWの「あたりまえ体操」なんか、それだけで成り立たせているし。

 歌で変に考えオチとかシュールな感じにしてしまうと、コミックソングじゃなくて「普通の歌詞」になってしまうんです。それこそとんねるずの「雨の西麻布」とか、セリフはともかく、明確なパロディを含んでいるにもかかわらず、歌詞だけ読むと普通のムード歌謡の歌詞です。
 かといってダジャレ系のギャグは、これはこれで難しい。サムいってことじゃなくて、歌でダジャレをやるとなると、歌詞そのものが音楽として成立してなきゃ、歌としてとてもつまらないものになってしまうんです。(ま、ラップで韻を踏むってのも、広義のダジャレかもしれんけど)

 アタシが知る限り、聴き手にツッコませる歌詞は、ドリフターズ以前にはないと思う。クレージーはもちろん、エノケンやトニー谷にもない。
 つまり、なかにし礼は、以降のコミックソングや歌ネタに繋がる画期的な方法論を持ち込んだ、といえると思うわけで。
 よく「ドリフターズのコミックソングは、クレージーキャッツの二番煎じになることを恐れて、民謡などのカバー中心になった」と言われていますが、なかにし礼の詞といい、大胆極まるアレンジを導入し、超ミクスチャサウンドといえるものに仕立てた川口真の編曲といい(以前ホメた、とんねるずの「ガニ」なんかは影響下にあると思う)、後年の人たちへの影響は大きい。

 アタシはなかにし礼といえば「兄弟」(トヨエツとたけしがやったドラマ版の方ね)の名台詞「兄さん、お願いだから死んでくれ」を散々ネタとして使わせてもらったけど、原作(未読)ではまず兄の死のシーンから始まり、すぐ「兄さん、死んでくれてありがとう」なんていうセリフがあるようです。
 これも、よくよく考えると、ものすごく業が深いセリフのようで、どこかユーモラスなんですね。
 ま、「兄弟」はメチャクチャな話ですが、メチャクチャこそ笑いがないと成立しない、ということがわかってたってことでしょうかね。







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