何とかならんもんか
FirstUPDATE2016.12.29
@Scribble #Scribble2016 #映画 @戦前 単ページ アーカイブ フィルム保存 ケツ持ち 予算 デジタル化

毎度楽しませていただいている、また当ブログのネタにもさせてもらっている「魔法使いの森」というサイトがあります。

本当にこのサイトの管理人さんはよく調べているし、何というか、実に気持ちの良い「熱量」なんですね。だから読む側も気持ちが良い。
余談ですが、おそらくここの管理人さんとアタシはほぼ同年代、しかも推測ですが、かなりご近所さんみたいなんで、偶然どこかですれ違っているのかもしれません。
さて、それはいいんですが、気になることを書かれていたので、またしてもネタにさせていただいます。



これ、もうアタシがずっと考えてることでして、もっとはっきりいえば「苛立ち」とか「悔しさ」といってもいいかもしれない。
それほどアーカイブは重要だと思うし、日本であまりアーカイブという概念がないことを歯痒く思っていた矢先なんですね。
「魔法使いの森」の管理人さんは、主にゲームについて書いておられますが、アタシでいえば映画です。
先のエントリでも、ちょっとだけ映画についても書かれていますが、これをアタシなりに補足してみます。

日本で戦前に作られた映画が、アーカイブの概念がないばかりに消失した、という「伝説」があります。しかしこれは正確ではない。
たしかにアーカイブという概念はありませんでしたが、それなりの本数は残っています。もちろん映画会社が保存していただけですが。
映画、当時の言い方なら活動写真ですが、明治末期から大正期にかけては、基本的に「大資本ではないプロダクション」によって作られるのが普通でした。
だから日本各地に映画会社があったし、当然後のブロックチェーンという概念もなく、決まった劇場だけで細々と上映されるためのものだったんです。

そのうち、合併などを経て、日活という映画会社が最大手になります。さらに関西の興行界をリードしていた松竹も映画に乗り出し、日活と松竹という二大巨頭体制が昭和の初めに出来上がりました。(といっても中小の映画会社もまだまだあった)
しかしこの頃でさえまだブロックチェーンはなく、出来上がったフィルムは大都市→地方へとたらい回しにされて、最終的には切り刻まれて駄菓子屋の店先に並ぶ、という有様でした。
これが1930年くらいになるとネガを保存する、という考えが浸透し始めます。

例えば小津安二郎の映画は半分くらいが消失したとされますが、消失したほとんどは1920年代に作られたもので、それ以降の作品はほぼ残っている。もちろん欠落がある作品もありますが。
さらにP.C.L.、後の東宝はほとんどの作品を保存している。現存が確認できない作品はあるのですが、それでも大半の作品は現存する、と考えて間違いありません。
これは以前も書きましたが、松竹作品で消滅してしまったものが多いのは、戦後になって下加茂撮影所の火災があったためです。

ではアメリカはどうかというと、かなり綺麗な状態でフィルムが残っている場合が多い。
しかしさすがアメリカ、と考えるのは早計です。
まず国土面積の違い。土地があるんだから保存しておける場所も多いわけで、それだけで有利です。
当時のフィルムは非常に燃えやすく、簡単に発火したらしい。これも木造建築が多い日本は不利で、アメリカなら大丈夫、となりやすいだけです。
当然アメリカは空襲を受けていない、日本は受けた、ということも皆無ではないけど、戦争のせいで貴重なフィルムが、ということは意外にもそこまでないんですね。
それよりも検閲でネガを切り刻んで短縮版を作ったりした方がダメージが大きい。ま、これは時代背景を考えるとしょうがないんだけど。

つまりはこういうことです。
1920年代までは、そもそも映画っつーか活動写真は使い捨てのものだった。だからこの時代の作品が残っていないのはアーカイブ以前の話で、仮に日本にもアーカイブの概念が強く行き渡っていたとしても残っているかといえば微妙です。
これが1930年代以降は、先に書いたように意外に残っている。アーカイブの概念ではないにしろ、保存して後々商売にしよう、と考えたからかどうか、たしかに場所は取るけど、残しておいて損はない、くらいには考えたんでしょうね。
事実、戦後すぐ、まだ映画が量産体制に入れず新作がない中で、戦前作品が結構リバイバル上映されているんです。それも小さな劇場ではなく日劇のような一流の劇場でね。

ま、それはそれでメデタシなんだけど、これらはあくまで映画会社が自分ところの作品を保存しているだけ、つまりアーカイブとは違います。
さっきも書いたように、昔のフィルムは燃えやすいのです。しかも非常に劣化しやすい。だから本当は1日でも早くデジタル化することが好ましい。
しかしこれがカネがかかりすぎる。ひと口に「フルハイビジョンデジタルリマスター」なんて言いますが、一本の作品をリマスターするだけで、ものすごく手間がかかる。手間がかかるというのはつまりカネがかかるという意味です。
しかも需要は、というと、これが残念ながらほとんどない。せいぜいスカパーで放送するくらい。ペイできないからDVDにも出来ない。さらにいえば、厳密には著作権が切れている。
これじゃ映画会社が積極的にリマスター(というかテレシネ)しないのも当然です。

はっきりいえば、映画のようにアーカイブ化するのに費用がかかりすぎる文化にかんしては、国が「ケツ持ち」をしないとどうしようもない。
でもさ、「日本映画をすべてデジタルアーカイブする」なんて法案が通るとはとても思えない。フィルムセンターも頑張っているけど、戦前制作の所蔵作品を見ると、アーカイブなんてとてもとても、といったレベルです。国会図書館が10だとするなら、フィルムセンターは1あるかないかしか所蔵していない。
何の解決策も提示できず、投げっぱなしのエントリですが、アタシは本当に悔しい。とくに著作権の切れた戦前の映画なんか、ちゃんとデジタルアーカイブにすれば本当に貴重な資料になるのに。

アタシも個人で200本ほどは戦前の映画を集めたけど、これだってかなり偏ったラインナップだし、ほんの一部に過ぎないもん。
個人じゃ無理だよ。だから何とか、しかるべきところが、とずっと思ってるんだけどね。







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