ジャズのアドリブ演奏というものがありますが、音楽をまったく知らない人には今ひとつ伝わりづらい。ま、アタシもたいして詳しいわけじゃないけどさ。
アドリブとデタラメはまったく違います。何らかの同一感がないとアドリブとは認められませんし、高い演奏力とセンスが必要とされます。当然やれる人は限られています。
しかも能力だけの問題じゃなしに、少なくともバンド内では「アドリブをやっても許される」存在として認められてなければならない。
アンサンブルとは単に不協和音を出さないだけではなく、人間関係においても必要で、いわば信頼ですよね。こいつならアドリブパートをもたせても大丈夫、という。
アタシはね、音楽であろうが映画であろうが、デタラメは嫌いなのです。理由は簡単で、デタラメから何かが発展する可能性なんて、万にひとつもないと思っているからです。
アドリブが「様々なことを掌握した上での崩し」だとするなら、デタラメは「何も知らないからメチャクチャやってるだけ」なんです。知識や技法の上に成り立ってないから、発展なんてしようがないし、一番困るのが、たとえ本人でも再現が不可能なんですね。
料理なんかだとわかりやすいでしょう。ぜんぜん作り方がわからない料理を見よう見まねで作ってみたはいいけど、もう一度まったく同じ味にしようと思ってもできない。
もちろん家庭料理というか趣味の域であるなら、別に構わないですよ。でも商売に「偶然」とか「奇跡」はいらない。あってもいいけど、そんなもんに頼ってたら商売なんか成立するわけがないのです。
だって嫌でしょ?行くたびに味がまったく違うレストランとか。
奇跡に頼らないで、お客さんを確実に楽しませる、それが商売であり、エンターテイメントも同じで、それがショウビジネスだと思うのですが、やっぱり確実さを求めるなら、最低限は「文法」に則ったことをやらなきゃしょうがないと思うのです。
映画には映画の文法、音楽には音楽の文法があります。文法を無視して、奇跡に頼らない計算された「面白さ」を実現させるなんて、こんなの不可能ですよ。
天才なら可能?ま、それもおめでたい話ですが、むしろ天才は「文法を自分で作ってしまえる人」なんですよね。でも天才と言われる人だって、それまでの積み重ねを無視して登場したのか、というと、そんなことはあり得ない。というか一歩進めることができるだけでもアタシからいえば天才なのです。何もない荒れ果てた土地にいきなりビルディング群を作るようなことはできるわけがない。それはもう天才とかではなく人外です。
もうどうしようもないんだけど、若い時は「誰もやったことがない、まったく新しいこと」にチャレンジしたくなります。
チャレンジ精神自体は素晴らしい。でもだんだん、誰もやってないのは無意味だからだ、ということに気づくことになります。人類が積み重ねた歴史は、そこまで馬鹿じゃないし、そこまで自分は賢くないことにいずれ気づきます。
以前Twitterに、自分だけが賢くて周りが馬鹿に見えてしょうがない、というのはもっとも危険な兆候だと書きました。
たぶんこういう人は、ロクなものを生み出せない。アタシは勝手にそう思っている。
エンターテイメントでいえば、ひとりよがりの文法を無視しまくったものしか作れないと思う。どうせ「面白くない?それはお前らが馬鹿だからだ」みたいなものになるに決まっている。
モノを作るにあたって、そういう人にだけはなっちゃいけない、だからアタシも常に気をつけてはいるのですがね。
が、ここからが実は難しい。
そうだそうだ、デタラメなんてロクなもんじゃない。余計なことは考えずに、やっぱりキチンと文法に則ったものを粛々と作ろう、なんてしたら、やっぱり、つまらないものになってしまう可能性が高くなっちゃう。
文法を絶対視しすぎて、少しでもはみ出すことは悪だ、みたいになっちゃうと、先行例を露骨に真似しただけの、くだらない二番煎じになる。
いわば「置きにいく」というやつですが、昨今のテレビ番組の失敗するパターンの定番のようになっています。
出演者と少しだけテーマを変更しただけの、ヒット番組の安易な二番煎じ番組は、やはり増えてきたように思うし、それがまた、ぜんぜん視聴率が取れない。
アタシは真似ようがパクろうが、まァ、そこまで気にしない。でも上辺をパクっても上手くいくわけがないのにっていつも思う。何つーか、パクるポイントを間違えてるというか。
文法を無視するのもダメ、文法を安直になぞるのもダメ。どっちも当たり前なんだけど、じゃあどうすればいいかですが、こんな簡単な話もない。タイトル通り「ある程度」守る。もちろん「ある程度」の頃加減は難しいけど、作品としてはともかく商業的に成功したものなんて、その頃加減が上手くいったものばかりだもん。
難しいのはわかるよ。でもせめて意識はしようよ。意識すらしてないのは、さすがに怠慢といわれてもしょうがないんじゃないですかねぇ。