松竹製作のハナ肇主演映画といえば「馬鹿」シリーズ、「一発」シリーズとあとひとつ「為五郎」シリーズがあります。
「馬鹿」シリーズと「一発」シリーズは山田洋次が監督を務めたこともあって知名度もそれなりにあるしDVDにもなってる。しかし「為五郎」シリーズは2018年になって衛星劇場で全作が放送されるまで、視聴がきわめて困難なシリーズでした。
DVDにもなってなければ名画座でかかることもほとんどない。かくいうアタシもこのシリーズはまったく観たことがありませんでした。
中でもずっと観たいと思ってたのが森崎東(「崎」は異字体、正確には「森「﨑」東」だけど文字化け対策で以降も森「崎」東と表記)が監督した「生まれかわった為五郎」だったんです。
何かの本で読んだのですが、とにかくハナの暴れっぷりが凄いと。森崎東が脚本に参加しただけの「喜劇 一発大必勝」があれだけ凄いんだから、これはもっと凄いんじゃないかと。何しろこれは監督だからね、森崎東が。
結論から先にいいます。単純な暴れっぷりだけでいえば「喜劇 一発大必勝」の方が強烈です。というかこれはもともと唯一「男はつらいよ」シリーズで森崎東が監督を務めた第三作「フーテンの寅」の没台本をベースに作られた話らしいので、ハナを暴れさせることを目的とした作品じゃない。むしろ、ところどころ車寅次郎要素が顔を出すのが面白い。
さて、初見での驚きもいろいろあって、まず主題歌が流れるのにビックリしました。
あきらかにハナが歌っているのですが、映画オリジナル曲のようで、クレジットテロップが出ないので映画を観ただけじゃタイトルもわからない。
しかしこれは台本をチェックすればわかります。曲名は「タメゴローのバラード」。ま、わかるのは曲名(と歌詞)だけで、作詞者も作曲者も台本に記載されていません。
ただ音楽が松竹にしては珍しくお馴染み宮川泰なので、おそらく作曲も宮川泰でしょう。ですから初めて聴いたにもかかわらず妙に耳障りが良かった。
アタシの癖でね、映画を見る時はどうも類似作品を思い浮かべながら鑑賞してしまうのですが、最初は「なつかしい風来坊」ぽいかなと。んで途中で「日本一の断絶男」を思い出して、いややっぱりこれは「吹けば飛ぶよな男だが」かと。でも結論をいえば「何かに似ているようで何にも似てない、森崎東の世界」なんです。
この映画の精神的主人公は財津一郎だからね。ハナの自由度は高い。でもハナのキャラクターが「馬鹿」シリーズや「一発」シリーズとも違うのです。
まったく行き当たりバッタリにみえて、実は結構計算してるんだけど、やっぱりデタラメで、そういう部分だけでいえば「ニッポン無責任野郎」の源等を彷彿させる。
でも源等や「喜劇 一発大必勝」のおん大のような正体不明感は意外とない。いや正体不明といえばそうなんだけど、背負ってきたものがみえるんです。そういう意味では、もしかしたら川島雄三の遺作「イチかバチか」の大田原が一番近いのかもしれません。
とにかく「スカし」が山ほどある映画でね、さあこれで一悶着あるぞ、と思ったら何にもなかったり、逆に大団円だと思ったら急転直下で大騒動が起こる。こんなに最後まで油断ならない映画も珍しい。ある意味ジェットコースタームービーなのかもしれません。
細かいシーンもよく出来てるし、役者の長所も存分に使い切ってる。
ただ、それでも「傑作」というより「怪作」といった方がしっくりくるのは、おそらく非常に好き嫌い、いや嫌いというより不得手といった方がいいか。とにかく評価がわかれると思われる映画なんですよ。
たとえば「イチかバチか」なら、まあ誰にでも面白いよ、と薦めることができる。でも「生まれかわった為五郎」はそうじゃない。下品さやエロティシズムは抑え気味なのですが、森崎東のアクが万人受けを拒んでる感じなのです。
未見の方のために具体的には書きませんが、なんというか、誰もが持ってる人間の弱いところをキリキリと穿られる感覚があるというかね。何もそこまで、といった感じで追い詰めてくる。
喜劇には違いないんだけど、この映画はけしてエンターテイメントじゃない。表明上は軽いけど、森崎東特有の重さがある。
そういう映画って、誰にでも薦められるわけないのですね、やっぱり。
さて、クレージーからは桜井センリのみ助演していますが、トボけた神主役で、出番は少ないものの意外と面白い使われ方でした。
そういや「日本一のゴリガン男」でもメンバーから唯一桜井センリが助演だったし。なんかこの人すごいわ。どんな映画にも、アクの強い森崎東や古澤憲吾の映画にすら溶け込めるし、個人としてアクを出そうと思えば出せるし。実は谷啓以上の万能選手じゃないかな。
後に衛星劇場にて「生まれかわった為五郎」が放送されたので映像は持ってますが、いやぁ、やっぱこれは怪作です。つかもしかしたら森崎東らしさが一番出た作品じゃないかと思ってみたり。 |
---|
@クレージーキャッツ @ハナ肇 @森崎東 #映画 #松竹 単ページ @アッと驚く為五郎 @生まれかわった為五郎 PostScript #2010年代 #物理メディア tumblr