さてさて、クレージーキャッツのファンサイトなぞをやってながら本当にお恥ずかしい限りなんですが、2014年になって初めて「ビッグマネー!~浮世の沙汰も株しだい~」を全話視聴しました。
言い訳がましいですが、アタシはこのドラマが放送されていた当時、猛烈に忙しい会社で働いており、テレビなんてほとんど見ることがなかった。それどころか、誰がどんな番組に出るという情報にすら疎かったのです。
もちろん植木等が出演しているのは知ってましたが、まさか主演格とは思わなかった。
そこで「ビッグマネー!」を植木等中心に見ていきます。
まず「植木等が連ドラで主演格で出演する」こと自体が非常に珍しい。
古くは「おれの番だ!」や「おきあがりこぼし」など、クレージーキャッツ全盛期にいくつかありますが、それ以降は、何故かほとんどないのです。
単発ドラマでは東芝日曜劇場枠でいくつか主演作がありますし、シリーズ化された「名古屋嫁取り」もある。
でも連ドラとなると、本当にないんです。
かろうじて主演格といえるのは「ハングマン」シリーズと、「オヨビでない奴!」くらいでしょうか。それでも、どうも主演格と言い切るには心持たないし、これらは「スーダラ伝説」以前の話です。
あれだけ一世を風靡し、俳優としての地位も確立していた「スーダラ伝説」以後に主演格の連ドラ作品が皆無ってのも変な話でして、もちろん年齢を考えても単独主演は無理にしても、もっと主演格での起用があっても良さそうなもんなのですが。
しかし「ビッグマネー!」の場合、タイトルバックに長瀬智也、原田泰造に続いて植木等の名前が登場します。タイトルバックで出てくるのはこの3人だけなので、完全な主演格といえます。
何より驚いたのが、植木等演じる伝説の相場師が完璧に「その後の有言実行男」になっているのですよ。
1970年代後半以降、植木等及びクレージーキャッツは限定的な形で「かつての姿」を披露しましたが、植木等に限っていえば、ほぼすべて「無責任男」という扱いでした。
1968年公開の「日本一の裏切り男」での「無責任男の一代記」を経て、「植木等スーダラ90分!アッと驚くクレージーキャッツ大集合!!」内の「平成名物!無責任社長」の馬に乗って出社するシーンで無責任の物語は完結したといっていいと思います。
鴨下信一は「馬で出社するシーンだけちゃんと撮ればいいと思った」というようなことを発言してますが、これは実に無責任男をよくわかった人の発言です。
では「日本一の色男」からはじまり「日本一の男の中の男」まで続いた有言実行男のその後の物語はというと、作られたことがない。
「無責任艦長タイラー」の著者である吉岡平のフェイバリット映画は「日本一のホラ吹き男」だといいますし、ビデオ化が先行したこともあり無責任ものより有言実行ものの方が愛好者が多い時期も長かったのです。
本来なら「会社物語」こそ「その後の有言実行男」を描くべき映画だったのです。
最初に植木等に提示された設定(悪事がバレて降格させられた男)は論外として、大邸宅に住み、若い嫁をもらい、ほとんど意味なく守衛として働いている、という設定も悪い意味で支離滅裂すぎて、まったく有言実行男のその後っぽくない。(言うまでもないけど、その後の無責任男ぽくもない)
無責任男にしろ有言実行男にしろ「あり得ないレベルでのアクティブさ」が求められるわけで、その上で有言実行男なら「超有能」でなければならない。「超有能」を表す設定として「大邸宅」とか「若い嫁」では全然ダメなんです。それじゃ過去の栄光にしがみついてるだけだし、守衛なんてそんな意味ないことをやるわけがない。
「ビックマネー!」では完璧に有言実行男になっています。
とにかく超有能だし、あの年齢にしてはアクティブすぎるくらいアクティブ。なんたって世界有数の銀行を潰そうとするくらいだから。
「銀行を潰す」動機は、どことなく「日本一の色男」を彷彿とさせるのもいい。あと言うまでもありませんが、小道具のニューズウィークの表紙は「日本一のホラ吹き男」のスチール写真ですね。「ホラ吹き男」のポスターでも使われたし、「植木等伝 わかっちゃいるけど、やめられない」でも使われましたから、ファンにはお馴染みすぎるくらい馴染みの写真です。
そしてなにより歌とダンスが重要なファクターになっているのです。
詩吟が趣味というのもいいし(「いろいろ節」をイメージさせる)、ナット・キング・コールの「トゥーヤング」を歌うシーンまで出てくる。
「トゥーヤング」は「植木等・ザ・コンサート いろいろあるよいろいろね」でほんの触りだけ歌ったことがありますが、「ビッグマネー!」ではほぼワンコーラス歌っているのが嬉しい。
もうこの頃の植木等は病気の影響で歌えなくなってた時期で、正直全盛期とは比べられないほど声はでてない。それでも短いフレーズとはいえ数度に渡って劇中で歌唱シーンがあるのは奇跡といっていい。
植木等は常に「これは植木等に相応しい仕事か」を自問していたといいますが、おそらく「ビッグマネー!」の台本を読んで、即座にこれは植木等がやるべき仕事だと理解したんだと思うんです。
「これで有言実行男の物語が完結する」と直感したのかは、わからない。でも、これはやらなけばいけない仕事だと理解していなければ、かなり肉体的にしんどい時期だった当時の植木等が受けるわけがないと思う。
そしてもうひとつ重要なのは、他のふたり、つまり長瀬智也と原田泰造のふたりはどちらも「有言実行男の分身」というか「有言実行男の血のつながってない子供」のようなキャラクターなのです。
有言実行男のいい加減さとここ一番の勝負強さを受け継いだのが長瀬智也で、敵役であるはずの原田泰造も、ニヒルさとクールさと女性の扱いの上手さを受け継いでいる。
だから「ビッグマネー!」は有言実行男の魂を受け継ぐ者たちの物語とも言えるんです。
物語としても見事などんでん返しといい、本当に面白いので、クレージーファンならなおさら、是非、とオススメしますよ。