地域密着の芸能は可能なのか
FirstUPDATE2015.11.6
@Scribble #Scribble2015 #エンターテイメント #テレビ #ラジオ @戦前 #1950年代 単ページ NHK ファミリーヒストリー 野口五郎 地域密着 漫才

えと、先日(現注・2015年10月23日)放送された「ファミリーヒストリー」のゲストが野口五郎でしてね。あ、一応芸名の由来も触れてましたよ。

そんなことより、野口五郎の両親は、いわば「挫折したミュージシャン」でして、その話自体はそれなりに知られていたけど、詳しくその足跡を辿ったことは大きな意味がありました。
野口五郎の両親が出会ったのは岐阜にあった小さな楽団で、1946年、つまり終戦の翌年になります。小さな、とは書いたけど、紹介された画像を見る限り、かなり立派な小屋の中心的存在だったようです。
いや、アタシは野口五郎の両親の足跡を、つかファミリーヒストリーをなぞろうってんじゃない。
引っかかったのは「昭和30年代前半にはラジオの普及もあって楽団は解散した」とあったことです。

この辺のことはかなり説明が必要になる。
日本でラジオ放送が開始されたのは1925年です。つまり大正と昭和の境。言うまでもありませんが今のNHKです。
戦前戦中のNHK(当時はこの名称はないけど面倒だからこう書く)がいったいどのようなものを放送していたかですが、どうしてもお堅いイメージのNHK、ましてや規制の厳しい時代ですから、さぞや生真面目極まる内容だった、と思われがちですが、実際はそんなことはぜんぜんない。

かなり早い時期(昭和初年期)からジャズソングに着目したり、少なくとも太平洋戦争が始まる前までは歌謡曲や古川緑波の喜劇の舞台中継、はたまたエンタツ、アチャコの漫才(すでにコンビを解散していたエンタツ・アチャコは映画とラジオ出演、さらに大きなステージの時のみコンビを復活させていた)までやっていました。つまりはぜんぜんお堅くない。
ではラジオの普及ですが、これもそれなりに普及している。そうでなければ1945年8月15日、陛下の肉声、つまり玉音放送ですが、放送という形で国民に伝えるわけがない。

整理すると、戦前の時点で、ラジオは普及し、放送内容も十分にエンターテイメントを包括するものだったといえるのです。
だから昭和30年代(つまり1950年代後半)になって突然ラジオの影響力が増大して、野口五郎の両親が所属していた楽団(とっくに退団してたらしいが)が解散の憂き目に合う、というのは考えられないのではないかと。

しかし、それでもアタシは「ラジオの影響」ってのを、まったくの与太話とも思えないんです。
上手く書けるかわかりませんが、何というか、東京や大阪といった大都市以外(当然、野口五郎の生まれ、彼の両親が活動していた岐阜も含まれる)では、1950年代も後半に入った頃に、ようやく音楽を含む芸能にたいして「耳が肥えてきた」ともいえるんじゃないかと。

たしかに戦前の時点でもクオリティの高いエンターテイメントはラジオから流れてきていた。が、戦争が起こったことで空白が出来てしまった。大都市以外の人々の耳が肥える寸前に、といっていいのかもしれない。
戦争が終わってGHQの指導もあって、ラジオからはさらにクオリティの高いエンターテイメントが流れるようになった。
それから10年、いよいよ日本全国の人の耳が肥えた状態になった、それが1950年代後半なんじゃないかとね。

話をタイトルに戻します。
1950年代前半までは、地域密着の楽団がそれなりの規模の小屋で演奏し、おそらくは興行として成り立っていたわけです。
では今、こうしたことが可能かといえば、まず無理です。
今も地域密着のバンドやアイドル、さらには昨今のゆるキャラなんか典型ですが、あることはあります。
が、これはすべて無料のイベントでしか通用しない。カネを払ってまで地域密着のバンドなりアイドルを見たいと思わせるのは相当な無理ゲーです。

今中央で活躍している(つまりテレビなりCDなりのメディアに乗っかっている)バンドやアイドルのレベルがね、高いとか低いとかって問題じゃない。でもカネがかかってる分だけ、やはり圧倒的に見栄えはします。
しかもあまりにも容易く「カネのかかった旬な」エンターテイメントを「確認」できる時代です。
そりゃ、地域密着のがショボく見えて当たり前なんですよ。

でも、穴はあると思う。
今の時代、「確認」はできるけど、「体感」はわりと難しくなっています。そこを狙う。
アホみたいな話っつーか、微笑ましい話なんだけどさ、どっかの県にセブンイレブンが初進出とかで並んだりしてるでしょ。そりゃね、都会の人間からすれば「セブンイレブン如きに」でしょうよ。
今までセブンイレブンがなかった地域の人たちだってセブンイレブンの存在は知ってたはずなんです。つまり「確認」は出来ていたと。
しかし「体感」がまだだった。だから少しでも早く「体感」したくて、並んだと思うし、それはちっとも可笑しいことじゃないと思う。

とはいえ、芸能をまともな体感レベルまで持っていきたいのであれば、やはりカネがかかる。楽団=バンドでも、いくら頑張って練習してもビール箱のステージでは満足な体感を客に与えることは難しいと思うし。(もしビール箱の上で成し遂げられるのなら、もう日本トップクラスの実力だよ)
地域密着なんだから身近な存在でいい。大きなハコモノはカネがかかりすぎるから舞台は極力小さくていい。
でもさ、やっぱり、特別な日、せいぜい年に一回とか以外にさ、商店街の隅っこの仮設ステージでやらせちゃダメだと思うんだよな。そういうことをするから安っぽくなっちゃう。

300円でもいいよ。何なら100円でもいい。本当に地域密着のエンターテイメントを根付かせたいなら「カネを払って観に行く」「カネを貰って演奏したり演じたりする」ってのだけは崩しちゃいけない。
とにかくタダはダメ。一度タダにしたら永遠にタダになるんだから。カネを生まないことなんか絶対に根付くわけがないんだから。







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