バースは神様じゃない、は言い過ぎにしても
FirstUPDATE2015.8.10
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野球選手というのは数字で評価されます。後年の評価もですが、リアルタイムでも数字で年俸は大きく変わる。だから選手は印象ではなく数字を残すことに懸命になるのです。

阪神タイガースというチームにおいて、単年単位でもっとも数字を残した選手といえば、バースを置いて他にないでしょう。

打率 .350 本塁打 54本 打点 134 OPS 1.146
打率 .389 本塁打 47本 打点 109 OPS 1.258

ともに三冠王をとった1985年と1986年の成績ですが、どちらも猛烈な数字で、バースの現役時代を知らない人が見ても「これなら神様扱いされるよなぁ」と一発でわかります。
ではリアルタイムで見ていたファンは、そりゃ総意は知りませんが、少なくともアタシはバースをどう見ていたかですが、「神様か」と問われたら「正直そこまでのモンじゃない」と答えるしかないんですよね。

なるほど、バースの打棒は歴代でもトップクラスです。これには異論は一切ない。
ここんところやけに来日が多いのですが、サンタクロースの格好をさせられたり、議員を続けるよりタイガースの監督になりたい、監督にしてくれるならいつでも議員を辞める覚悟はある、などと阪神ファンのハートをくすぐることも言ってくれたりもする。
でも現役時代のバースはこういうタイプではまったくなかった。

現役でいえばマートンの態度が取り沙汰されることが多いのですが、バースはマートンの比じゃなかった。
マートンなら牛丼大好き、メッセンジャーならラーメン大好きってのは有名ですが、バースにはそんなエピソードもない。
とにかくプライドが高くて無愛想。打ちまくってるから誰も文句を言わなかっただけで、はっきりいえばかなりの問題児でした。

1985年10月16日、神宮球場で行われたヤクルト戦に引き分け、阪神タイガースは21年振りの優勝を決めるのですが、試合が終わった直後、記者会見が行われました。
出席したのは監督の吉田義男は当然として、主力選手でいえば、掛布、岡田、バース、真弓、中西、といった面々です。他にもいたのかもしれないけど覚えていない。
しかしバースの対応ははっきり覚えてる。
他の選手は緊張しながらも喜びと日本シリーズへの抱負を語っているのに、バースだけは何を聞かれても「アイ ホープ ソー」としかいわない。取り付くシマがないとはこのことで、終始薄ら笑いを浮かべて、非常に態度が悪かった。

記者会見だけじゃない。守備もとにかく動かない。ハンドリングは良かったから大きな間違いは犯さなかったけど、ファースト方向のゴロも飛びついてとろうなんて絶対しなかった。
1985年の日本シリーズの初戦、辻のセーフティープッシュスクイズをバースが取ってホームでアウトにしましたが、何を隠そうあのプレーに一番驚いたのは阪神ファンのはずです。
つまりそれくらい、ちゃんと守らないイメージが強かったのです。
あと、ピンチの時、マウンド付近にバッテリーと内野陣が集まりますよね。あれもバースは参加しない。一塁ベース付近でウロウロしてるだけ。
極め付けは采配の批判まで始めたことで、吉田義男更迭の原因はマスコミとの不仲と言われますが、それよりも表立ってバースが吉田采配を批判しだしてからおかしくなった。
それでも吉田はバースを庇いましたが。

たぶんこの時代にネットがあったら、とんでもなく叩かれたと思う。アタシからいえば、もう本当、マートンなんかかわいいもので、バースの方が圧倒的に酷かった。
バースは長男の病気を理由に帰国し、それがきっかけになって解雇されますが、アタシの中ではあれだけ打てる選手を切るのは「もったいない」という気持ちはあったけど、「悲しい」とか「悔しい」とか、阪神球団にたいする怒りみたいなものはさっぱりなかった。

たしかに長男の病気という事情がありながら、なかなか日本に戻ってこないからといって解雇は「やりすぎ」なのですが、バースにたいする不満はフロント内にかなり根強かった、帰国はきっかけに過ぎない、と考えるのがやはり妥当です。
そしてこれ以降、阪神は極端に「扱いづらそうな」外国人を獲らなくなった。結果、扱いやすいけど打てないのばっかり獲ってくるようになったわけで、これも暗黒時代の遠因といえるかもしれません。

このようにプライドの高いバースですから、チーム内に溶け込んでいたとはいえない。何しろただのひとつも日本語を覚えようとしなかったんだから、そりゃ溶け込めるわけがない。
そんな中、唯一の例外が川藤でした。
野球の駆け引きに似てるから、と将棋を教え込み、何かと例のデタラメ英語でコミュニケーションを取ろうとしていた。つまりバースをチームに溶け込ませようとしていたのです。

こういった川藤の行動は非常に過小評価されている。何故なら、数字で表せることじゃないから。
よく「川藤の生涯安打数はイチローの1年分にも及ばない」と言われます。数字で川藤を評価すれば、三流選手ってことになる。
逆にバースを数字で評価すれば、超がつく一流です。
だから、もう30年近く経った今、依然としてバースは神様であり、川藤はたいした実績もないのに偉そうに喋るオッサン、という評価になるのは、ある程度は致し方ない。
でもリアルタイムで見ていた人間からすれば、そう簡単に割り切れるものではない。

バースの圧倒的な数字に敬意を表するのなら、川藤の数字に表れない行動にも、同じように敬意を表したい。
数字は強力な武器です。しかし数字は絶対じゃない。数字の重要性を語るのと、数字を絶対視するのは、まったく違う。
野球と離れますが、某所で「雀聖」と呼ばれた阿佐田哲也(色川武大)が実は麻雀の能力は低かったというのを数字で分析して、阿佐田哲也をこき下ろしていましたが、あんなの、何無駄なことやってんの?としか思わない。

数字以外は一切認めないってなら、じゃああんたの存在も認めないよ。だって人間ひとりよりコンピューター一個の方が役に立つもん。そう、数字ですべてを測るなら、ね。

YouTubeで掛布や真弓あたりから「バースはチームに溶け込んでいた」という話がずいぶん出ています。
実際はその通りで、本文に書いてることは一部間違ってるんだろうけど、それでも基本的に態度が悪いって意見は変えない。少なくとも気さくな感じじゃなかったし。




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