華やかなる暗黒時代
FirstUPDATE2015.6.26
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 アタシは1968年生まれですから、一般的に言われる青春時代にあたる時期は1980年代っつーことになります。
 しかしですな、非常に残念なことに、アタシは1980年代が苦手なのでありまして。
 
 さて、ヴィレッジバンガードみたいな店に行けば1980年代を懐古、みたいな書籍が結構出ていることに気づかされますが、1980年代を切り取るとなると、やっぱりファミコンになるのですな。
 ま、たしかにファミコンも1980年代を代表する<ブーム>だったとは思う。しかし、何か、どうも違う。何というかファミコンじゃあイマイチ1980年代の空気が表現出来ないと思うんですよ。
 それならまだヤンキーとか阪神タイガース21年ぶりの優勝とかグリコ・森永事件の方が、少なくとも当時を生きていたアタシからすれば1980年代っぽい。とくにヤンキー、いや時代的に<ツッパリ>と書いた方が気分が出るか。とにかくツッパリと、ツッパリの存在がバックボーンになった芸能人やテレビ番組、んでファッションって今見るとメチャクチャ1980年代っぽいんですよね。
 
 まァ自分では、アウトドア系や陽キャではないけど、それでも極端なインドア系でも陰キャでもないと思ってる。だいたいアタシは家でじっとしているのが大嫌いだし。
 それでも高校時代までは完全に陰キャ寄りで、大学に入ってからは友達と毎日のように馬鹿騒ぎしてたけど、気分は陰キャのままだったと思う。
 そんな人間だからツッパリが本当に嫌いだった。嫌いというより苦手と言った方がいいかもしれない。別にイジめられてたわけじゃないんだけどね。
 となると、ほんのりとでもツッパリの香りがするものも好きじゃないってことになる。でも時代はツッパリ全盛期。つまりアタシは「時代そのものを否定するしかなかった」のです。
 
 中学の頃に自分の部屋にテレビが来て(正確には旧式テレビのある部屋が自分の部屋になった)、そっから深夜映画、それも古い邦画にドハマりした。んでもって、どうも自分は1960年代に心惹かれるタイプなんだ、ということもわかっていきました。
 そして気がつけば「1960年代サイコー」みたいになってた。ファッションも芸能人も、本当にカッコいいと思った。それは別にいいんだけど、返す刀で「今の時代なんてサイアク」という発想になってしまったんです。
 本当はね、ただ単に1980年代って時代のファッションが理解出来なかっただけなんですよ。なのに時代の全否定に入ってしまった。
 それでも負い目みたいなのが皆無かと言うとそんなことはなくて、時代についていけてないっていう気持ちもあった。当時は「時代についていけてる人が羨ましい」なんて死んでも認めたくないなかったけどさ。「高校生でありながら1960年代の良さがわかるオレ」がアイデンティティだったっつーか。
 当たり前だけど、憧憬の裏返しをアイデンティティなんて言わないよね。
 
 自分の気持ちがちょっとずつ変化し出したのは大学に入ってからです。
 それは、さっき書いたように友達と馬鹿騒ぎしてたからじゃない。それよりもずっと大きかったのは泉麻人のコラムを読み始めたからです。
 泉麻人のコラムを読むことで、今の時代はこれはこれでいいんじゃないかと思い始めたし、ほとんど興味がなかった東京という街への想いも出てきた。それは今も継続しているわけで、ま、大仰に言えばアタシの人格の一部を作ったのは泉麻人と言えるのかもしれない。
 2018年8月に泉麻人が監修した「1980年代展」(日本橋三越)にも行って、トークショーで初めて氏を生で見たりしたけど、大嫌いなはずの1980年代も泉麻人というフィルターを通すだけでね、ほんのちょっと魅力的に思えてくるわけでして。
 
 それでも、やっぱ、ダサいなぁ、とは思う。つかデザイン面にかんしてはいくら泉麻人パワーを用いても肯定出来ない独特のダサさがある。
 大学時代の写真とかそこそこ残ってるけど、おぞましいレベルだもんね。肉体的には一番充実してるのに服装がダサすぎて、とてもじゃないけど人に見せられない。
 手元に1983年発行の「POPEYE」誌があるけど、すごいよ。マジで。強烈としか言いようがないダサさ。隅から隅までダサい。広告までダサい。

 つかこれ見てるとつくづく思うけど、そりゃ笑いの<ネタ>になるよなぁ、と。
 この「POPEYE」は1983年だからバブルの少し前になるけど、平野ノラがバブルをネタにしたのもわかる。つかわかりやすいもん。パロディは元を知らなきゃ面白くもなんともないけど、バブルファッションは見た目のインパクトだけで笑えるからね。
 
 バブル。正確にはバブル景気か。Wikipediaによれば『1986年12月から1991年2月までの51か月間』ってことになるらしい。
 実のところアタシはバブルの恩恵をほとんど受けていません。何しろ大学生だったし、せいぜいバイト代が良かったくらい。
 しかし世は狂乱といっていいレベルで浮かれていた。らしい。らしいばっかりだけど、自分の目で見てないもん。だから再びWikipediaに頼ります。
 

民間企業が好景気を受けた好業績を糧に、更に営業規模を拡大したり経営多角化を行うために新卒者向けの募集人数を拡大し、学生の獲得競争が激しくなった。(中略)学生の確保に成功した企業が内定者を他社に取られないようにするため、研修等と称して国内旅行や海外旅行に連れ出し他社と連絡ができないような隔離状態に置く、いわゆる「隔離旅行」を行った(後略)

 

「クリスマスは大学生が高級ホテルのスイートルームでパーティ」「赤坂・六本木では万札を振りかざさないとタクシーが拾えない」といった事象が起きた。(中略)消費の過熱は、六本木や銀座、新宿、渋谷などの歓楽街にも影響し、これらの盛り場では、大金を手にしたいわゆる「バブル紳士」から、学生ビジネスのみならず、アルバイトで遊ぶための金を手にした学生までが大金をつぎ込んだ。

 

1988年1月に、日産自動車が発売した500万円以上の高級車「日産・シーマ」が大ヒットを記録、日本銀行の支店長会議では、日本の豊かさを表しているとしてこの事例を「シーマ現象」と名付けた。

 
 主だった事象を拾いあげてみたけど、こりゃあ、なんなんだいったい。マジでこんなことがあったのかね。大阪の僻地にある大学に行ってたアタシにはまるで無関係だったから、どうも信じられん。
 そんなアタシが唯一<実感>として知ってるのは
 

この時期はファッションモデル出身の若手俳優や女優を主役に据え、生活感が皆無な毎日の暮らしを描いた「トレンディドラマ」が若い女性にブームとなっていて、特にフジテレビ月9ドラマがその牽引役となっていた。

 
 とは言え別にトレンディドラマを熱心に見ていたわけではありません。何度も書くように友達と馬鹿騒ぎするのに忙しかったからドラマなんか見てる暇がなかったし。
 それでも、何となくは、どんなものだったかはわかる。さすがに一度たりとも見たことがないってわけじゃなかったから。
 トレンディドラマの元祖は「男女7人夏物語」ってことになるらしい。らしいんだけど、これはまったくピンとこない。たしかに「男女7人夏物語」は<アーバンライフ>(←懐かしいw)をおくる複数男女による恋愛モノ、というね、のちのトレンディドラマの重要要素はすべて入っています。また重々しくもドロドロにもならない、すったもんだがあっても軽く明るく<次>へつながるってのもトレンディドラマと一緒です。
 
 トレンディドラマは「一応見たことがある」レベルですが、「男女7人夏物語」は本当に、信じられないくらいハマって見た。近年、再見&分析したけど、やっぱりこれは歴史に残るドラマだったってのを痛感したわけです。
 特段複雑な展開や設定でもないのに、登場人物それぞれにキチンとした人生、そして背負った十字架があり、まるでパズルのように組み合わさっている。
 ここまで完璧なシナリオのテレビドラマは珍しく、ストーリーだけでなく、ギャグやトレンディさがまったく浮いてないのもすごい。
 脚本の鎌田敏夫も、演出の生野慈朗と清弘誠も、主演の明石家さんまも、それ以外の6人も、すべてが完璧に組み合わさって出来たドラマなのが痛いほどわかったわけでして。
 
 ま、そう考えるならね、<元祖>ではなく<原液>なら理解出来ないこともないな、と。
 つまり「男女7人夏物語」を大幅に水割りしたものがトレンディドラマの正体ではないかね。「男女7人夏物語」からルーティーン化可能な要素を抽出して、あとは<旬の若手俳優>と<旬の職業>と<旬のスポット>で埋めていくっつー。
 当然「似た設定」と「似たストーリー」のドラマを量産することになるんだけど、視聴率は取れた(=商売として成功した)んだから、アリっちゃアリなんですけどね。
 
 そういや2005年に「くりぃむしちゅーのたりらリラ~ン」てな番組があってね、この番組のメイン企画だったのが「ベタドラマ」ってヤツで、「ドラマのありがちな展開」をクイズにして当てていくっていう。
 ベタドラマでパロディー元となったのはトレンディドラマが圧倒的に多かった。ベタ=ルーティーンなわけで、如何にトレンディドラマがルーティーンを多用していたかは「ベタドラマ」という形で証明されてしまったっつーね。
 
 これ、これってのはトレンディドラマのことだけど、もっとね、しゃぶり尽くすことが出来ると思うんですよ。
 平野ノラのネタやベタドラマでもいいんだけど、もう少し込み入ったっつーか、例えばフェイクトレンディドラマとかどう?と提唱したい。つまりバブル期を舞台にした、トレンディドラマのニオイを充満させたドラマをね、ちゃんと1クール分作るのです。
 重要なのは「当時(バブル期)じゃ作れない」モノにしなきゃいけない。まんまだったら再放送でいいんだし、今の役者で再現する<だけ>ならかくし芸にしかなりませんから。
 
 もう簡単に例を出すとするなら、超エリートサラリーマンの勤め先が山◯証券(もちろんそのままじゃマズいので元ネタがわかる程度に変えて)とか、ダ◯エーとかね。
 登場するスポットも、今はなくなった某ディスコとか某屋内スキー場とか。こんなのCGで簡単に再現できるでしょ。
 あと後の沢尻ナンチャラの元旦那みたいなキャラクターが出てきたりして。ハ◯パーメ◯イアクリ◯イターみたいな肩書きでね。んで3D◯(←伏字の意味ナシ)とかやたら推してんの。
 まあ小ネタとかならアホほど思いつくけどさ。それこそ馬鹿デカいケータイとかワンレンとか肩パッドとか。でもそれは今更でしょ?
 
 なんというか、パロディというより、やたら暗示がいっぱい入った、当時のダサさで笑おうじゃなくて、物凄くノーテンキな展開なのに、見てる人が薄ら寒くなるような暗示を入れたら面白いモンが出来ると思う。
 1994年の年末なら、年が明けたら神戸に転勤になる予定とか、未来人からすればコワいですよ。
 出来れば、やっぱ、フジテレビに作ってもらいたい。もう、まんま当時のノリでね。

2015年に書いた元エントリは完全に「極私的バブル話」だったのを「世間一般にとってのバブル」という視点を加えたら意外と興味深い感じになったんじゃないでしょうか。




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