昨年逝去された元・日本テレビプロデューサー井原高忠が「テレビの黄金時代」(雑誌版・小林信彦編)の中の鼎談で、黎明期が一番面白い、というようなことを語っています。(比喩表現なのでややこしいから引用はなし)
井原高忠は、まあ作り手ですから、作り手視点だと間違いなく黎明期が一番面白いと思う。だけれども、黎明期ってのは技術的な余地が大きすぎて、受け取り手側からするとメチャクチャ面白い、とまではいかないと思うのです。
アタシが知ってることでいえばパソコンなんかがそうですが、正直ワンボードマイコンの時代はそこまで面白くない。やはり面白くなりはじめるのはNECからPC-8001が発売されて以降、そしてエプソンがPC-9801の互換機を作る前までだと。つまり日本の主要家電メーカーがこぞってパソコンを開発していた時代が一番面白い。カオスというか、百花繚乱というか、勢力図がどう転んでもおかしくなかった時代が面白くないわけがない。
もうひとつ、インターネットもなんですね。
正直黎明期のインターネットは、やっぱりマニアのためだけのものでした。つまり世界が狭い。
インターネット人口がどんどん増えて、サービスも回線速度も実用的になる時期、いわゆる確立期ですが、これは2001年から2005年くらいまでだと思う。
今のインターネットが面白くないわけじゃないけど、確立期の面白さには敵わないですよ。
映画がサイレントからトーキーに代わり、テレビがすべて生放送からVTR収録が出来るようになり(作り手視点でいえばカラーになったことよりここが大きいと思う)、パソコンでいえば起動するとまずBASICだったのがOSが立ち上がるようになったり、ね。
インターネットでいえば、もうこれはブロードバンドですよ。ナローバンド時代は基本的に使い放題というのが不可能だったわけで(テレホーダイも時間が限られている以上ネット回線に繋ぎっぱなしにはできない)、単純に回線速度が上がっただけじゃなかった。
Yahoo!BBがサービスを開始したのが2001年らしいですが、アホみたいにモデムを配ってたのが2002年くらいでしょうか。その頃にはADSLだったとはいえ、やっと一般家庭にブロードバンドが入ってきたといっていい。
ま、Yahoo!BBは評判が悪かったし、実際アタシもヤな目にあったりしたけど、貢献度はハンパじゃなかったと今になってみて思う。あのアホみたいなモデム配りがなかったら、今ここまでインターネットが「あって当たり前」になってたかどうか。
それにしても2001~2005年は思い出深い。アタシが一番熱心にブログやってたのもこの時期(開始は2003年だけど)だし。
この頃は今振り返っても面白かったね。アタシだけじゃない。なんというか、みんなインターネットの可能性にワクワクしてたもん。
結局そこなんですよ。テレビだって、おそらく確立期には、テレビの可能性にワクワクしてたはずなんです。「可能性を想像するだけでもワクワクする」ってのは確立期の特権でね。黎明期は手探りすぎて可能性もワクワクもヘッタクレもない。確立期は全容が見えかけて消える時期だから。そりゃワクワクもしますよ。
これは懐古じゃなくて体験の問題なんです。何であれ確立期を体験したら、その時代が一番面白かったというに決まってる。黎明期が一番というのは当事者とスノビッシュな人だけ。逆に今の方が面白いというのは体験がないだけ。
アタシは当然知らないけど、プロ野球が一番面白かったのは、おそらく昭和20年代前半でしょう。どう見てもこの時代が確立期だもん。
だからもしこの時代を知ってる古参のプロ野球ファンの方が「あの時代が一番面白かった」と語られても、素直にいいなぁ、羨ましいなあとしか思わない。間違っても懐古厨とか老害なんて思うわけがないわけで。