ステキなタイミング
FirstUPDATE2015.5.12
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♪ くォぬォゆォで一番カンジンなァのはステキなタイミングッ

 2011年のことです。アタシは生まれて初めての海外旅行に行きました。ま、正確にはその前にグアムに行ったことはあるんだけど、何しろこの時は初海外ひとり旅であり初ヨーロッパです。具体的に言えばイギリスってことになるわけで。
 今振り返ってもこんなに刺激的な旅はなかった。以降、何度もイギリスに行ったし、何なら半年ほど滞在までしたけど、衝撃って意味では最初の時にはるかに及びません。
 とくに衝撃的だったのが大英博物館です。
 とにかくスケールがハンパない。日本でも博物館にはいろいろ行ったけど、比較の対象にすらならないって感じで。

 口さがない人からは「泥棒博物館」と言われるくらい、世界中のありとあらゆる<歴史的な>品がこれでもかと並べられている。とてもじゃないけど一日で見て回れないレベルで、館から出た時はヘトヘトになっていました。
 っても「広くて歩き回るのに疲れた」ってことじゃなくてね。何というか、人類の歴史がドーンッと塊で迫ってくるようで、言い表せないような<圧>で精も魂も吸い取られたみたいになってしまった。
 そしてこう思った。ああ、今、このタイミングで来れて本当に良かったな、と。

 この時アタシは40代前半だったけど、そりゃね、若い時に来ててもやっぱ衝撃はあったと思う。でも大英博物館にかんしては「死期が少しでも近い方が強い衝撃を受ける」と思うんですよ。例えばミイラとか見ても若い時なら「すごい」とか「怖い」で終わった気がする。でも人生も折り返しを過ぎた頃に見るとぜんぜん違う。上手く言えないけど「人間ってのはこういうことなんだな」みたいに思えるっつーか他人事には思えないんです。
 じゃあもっと遅く、一年以内でくたばるタイミングで来れば良かったかというと、それじゃあ衝撃をカタチとして表現する時間がない。
 だから40代前半ってのはベストタイミングだったな、とね。

 やっぱ何にでもタイミングってものがあるんです。坂本九の言う通り、いや植木等も言ってるけど、生きていく上で一番大事なのはタイミングだと思う。タイミングさえ間違わなければ他はどうにかなるんじゃないかと。
 でもなかなか、ベストどころかグッドタイミングさえもはかるのが難しい。大英博物館だって偶然っちゃ偶然だしさ。少なくとも<狙って>行ったわけじゃないもん。

 話は変わるようですが、アタシは<あえて>見てない読んでない映画や漫画が結構あるんですよ。
 例えば「第三の男」とかね。アタシが敬愛するクレージーキャッツの映画でもただ一本「日本一のヤクザ男」だけは未見です。
 「日本一のヤクザ男」はね、日本映画専門チャンネルで放送されたから録画したものは持ってるんですよ。でも見ない。正確には見たくない。なんかね、見たら「ああ、もう見てないのがなくなるのか」ってなるのが寂しくて。
 誰かが、誰だったかは忘れたけど「火の鳥の太陽編だけは絶対読まない。読んだら楽しみがなくなる」みたいなことを言ってて。
 アタシもまったく同じですよ。というかアタシもよく考えたら太陽編は読んでない。変な自制心が働いてるというか。

 何でこんなやせ我慢みたいなことをしてるかといえば、もったいないって気持ちもあるけどタイミングをはかっているんです。だから別に「老後の楽しみに」と思って取ってるわけじゃない。今だ!みたいなタイミングさえ来ればいつでも見る読む気でいます。
 でもこれが難しいところでね、我慢するのは構わないっちゃ構わないんだけど、実際見る読むした後に「ああ、もう少し早くやれば良かった」と思う可能性だってある。
 その逆で、これはもっと後にした方が良かった、みたいなこともあるかもしれない。でもそれは気が付かないと思うんだよね。たぶんぜんぜん噛み砕けてないんだろうけど、そんなもんだと思って普通に流してしまいそうだしさ。

 だいたいタイミングを狙って、なんて無理に決まってるんですよ。
 そりゃあ火の玉投手のドロップならタイミングを合わせることも、可能か不可能かで言えば可能かもしれないけどさ。
 どーでもいいけど、ずっと上記の歌詞が疑問で。「火の玉投手の<速球>を」ならわかるけど「火の玉投手の<ドロップ>(今は<縦割れカーブ>などと呼ばれている)を」だからね。もちろん緩急ということを考えたらタイミングを合わせるのが難しいのはわかるけど、妙に野球がわかった人が作った感じでさ。ちなみに作詞(名目上は<訳詞>だけど)はアダプデーションの天才・漣健児。このヒト野球に詳しかったのかしらん。

 閑話休題。

 芸能界だって「ああこの人、もう少し違うタイミングでデビューしてたらもっと売れたのに」なんて人もいないこともない。
 早逝したテントなんかもね、微妙に時期が悪くて売れなかったって感じじゃないかね。ってテントなんて言っても関西以外の人にはピンとこないだろうし、アタシもこの特異芸人を上手く説明出来る自信がない。つか百聞は一見に如かず、気になる方はYouTubeで「テント 芸人」で検索検索ゥ!←古い
 ちなみに「テント」だけだとアウトドア関係の動画ばかり出てくるので注意されたし。
 逆に「このタイミングだったからあれほど売れた」なんて人も当然いるわけですが、アタシはひとりの名前が浮かぶ。
 それが黒木香です。

 黒木香、と聞いて、ああ、あの、と思われる方は、まァ一定以上の年齢の方でしょう。何しろ今から20年前の時点ですでに「世間からは消えていた」んだから。
 わからない人のために軽く説明するなら、彼女はいわゆるアダルトビデオの女優さんですが、たぶんこの業界では最初のスター女優でしょう。
 彼女がデビューしたのは1986年らしい。しかし大々的にメディアに登場したのはたしか1987年になってからだと思う。たぶんアタシが知ったのは「鶴瓶上岡パペポTV」にゲストに出た時じゃなかったっけ。

 とにかく普通のテレビ番組も出まくっていたし、本を書くわ、レコードまで出すわ、一種の社会現象のような存在にまでなり仰せたんだから。Wikipediaの記載で一番ビックリするのはチチョリーナの声をアテたことだけど。
 黒木香が何より凄いのが「アダルトビデオ女優→普通のタレント」という転身ではなく、アダルトビデオ女優という肩書きのまま各種メディアに出てたんですよ。名前は出さないでおくけど、早逝した某タレントも「元アダルトビデオ女優」ってのは表に出さないようにしてたからね。
 だからホント、黒木香みたいな人、この人の前も、そして後も、ひとりもいない。文句なしに空前絶後の存在です。

 この人には3つの武器がありました。
 視覚的なものとしてはワキ毛。フサフサとしたワキ毛は、テレビで流せるギリギリのラインで、でもそれは自然と陰毛の代替を担っていたのは言うまでもありません。
 そして学歴。アダルトビデオ女優が堂々と現在在籍している大学名を口にする、というのは初めてだったろうし、しかもこの大学が国立大学だったのはインパクトとしても完璧でした。
 さらに徹底した、というか異様なまでの上流階級言葉で喋る。いわゆる「ござーます」的な喋りです。そんな口調で徹底的な下ネタを話す、という。
 下ネタだけではなく、国立大学生なりの知識もあり、普通の込み入った会話も出来る。
 つまり「知的で上品なお嬢様が、あろうことかワキ毛をなびかせるアダルトビデオ女優」という、ギャップここに極まれり、だったんだから、そりゃメディアに引っ張りだこになって当然です。
 もっといえば、この人の出世作が「気持ち良かったら<ほら貝>を吹く」という奇天烈な内容で、エロというよりは笑える内容なのもすごかった。

 しかしアタシは黒木香という人のアダルトビデオを一本も見たことがない。笑える、というのは聞いていたのですが、いや別にアダルトビデオに笑いは求めてないしなぁ、と思って借りなかった。
 それに、バラエティ番組に頻繁に登場する彼女を見るにつけ、いつしか「アダルトビデオ女優」というよりは「新型コメディエンヌ」みたいに感じるようになっていたので、この人にエロを期待しよう、という気にすらならなかった。
 でもこれって、わりと普通の感覚だった気がするんですよ。
 実際に彼女のビデオを借りて見た友人も「面白かったけど、ヌケなかった」と言っていたし。
 それに・・・、バラエティ番組に出てくる彼女は、何故そこまで、というほど、常に笑顔で、下ネタを連発する言葉と裏腹に淫靡な感じがまったくなかった。

 もういっこ、アタシ的に、かなり決定的な問題がありました。
 もちろん上流階級風の喋りのせいもあるんだけど、何だか顔も声も、とても大学生に見えなかった。つかはっきりいえば「おばさん」に見えたんですね。(Wikipediaによると、三歳ほど誤魔化してったっぽい)
 今になって検索とかしてね、やっぱり顔は好みじゃないし、スタイルも今のアダルトビデオ女優と比べると、というか比較するのが可哀想なレベルです。
 でも、何か、妙にそそられる。
 相変わらずエロい気分にはなれないけど、ちょっと喋ってみたいな、とは思うようになってきた。
 何なんだろうね。

 そう言えば黒木香と壇蜜を比較する人がいたりしましたが、検索すれば論じているブログも結構あったりします。
 だけれども、この人は壇蜜とは違うよ。下手したら正反対だよ。だってテレビでも結局壇蜜の売りってエロさでしょ。
 黒木香は違うもん。すべてを過剰にすることによって、エロを超越させて笑いにしてる。
 たしかに壇蜜も知的な感じで売ってるのかもしれないけど、後付け臭すぎる。何つーか、手段でありすぎる、というか、エンターテイメントになりきれていないっつーか。
 んで、これを言ったらおしまいだけど、壇蜜って時代性がないんですよ。どの時代の芸能界にいてもおかしくない。団地妻風エロ売りの人なんて、いつの時代もいるからね。

 そこが黒木香は決定的に違うんです。
 黒木香は、あの時代でしか成立しない。まずあの喋りをパロディとして笑えるのはバブル期がギリギリなんです。
 今はもう、あんな喋り方をする人はほぼいない。たぶんドラキュラかイヤミしかいない。つか肝付兼太しかいない。いや肝付さんも亡くなられてるし。
 それはさておき、よほどのことがないと大多数の人は「ござーます」喋りの人と接触する機会がない。つまりパロディの大元を、知識ではなく感覚で知ってる人の方が圧倒的に少ないんだから、パロディとして成立できないんです。
 逆にバブル期より前でも無理で、あそこまで徹底して上流階級のパロディをやっても「やりすぎ感」が受け入れられなかったと思う。
 早くても遅くてもダメなのが黒木香だったと思う。ベストタイミングを超えた、まァ「ぶちゃむくれタイミング」とでも言うのか。んなネタ、クレージーキャッツマニアしかわからんけど。
 何か裁判とかあったみたいで、いろいろあって、んで今は何してるのかもわからないみたいだけど、何か気になる。

 いい人生だったら、いいんだけどな。あれだけ時代に貢献したんだから、いい人生を歩む権利はあると思うから。

どうしても黒木香のことは残しておきたかったんだよね。
ただし「名前」は書き残したかったけど、黒木香氏はすでに一般人になられているので写真は一切使っていません。その代わり黒木香のキーアイテムと言えるほら貝をカバー画像に使ったのですが、何かいいほら貝の画像がないんですよねぇ。




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