クドカンの弱点
FirstUPDATE2015.1.13
@Scribble #Scribble2015 #テレビドラマ #藤子不二雄 単ページ 宮藤官九郎 ごめんね青春 立ち上がりの悪さ ドラえもん

藤子不二雄Aの、個人的に一番好きな作品「フータくん」の中に「お札の速達大かんげい」という話があります。

これは実際に起きた「ポストの中に千円札を投げ入れる」という珍事件を下敷きにしており、しかし藤子Aはどうしてもオチが思いつかなかった。
最終的に「マサにイガイやイガイ」といった展開で終わるこの話のオチを思いついたことが大きな分岐点となった、と後にA先生自身が語っているのは有名です。
それまでは普通に、まあ普通かどうかはわかりませんが、頭からケツまで全部想定して描いていたのを、自分自身でもどうなるのか全然わからないまま描いていく、という、アドリブに違い描き方になった、と。

この作劇のやり方のメリットデメリットははっきりしていて、メリットは読者の想像をはるかに超える奇想天外な話が描けること、デメリットは、いわゆる伏線が一切張れない。そりゃ次の展開を考えながら描いてるんだから伏線を張るのは不可能です。
アドリブで物語を紡いでいく、という構想の立て方をしている作家は、A先生以外皆無とはいわないけど、やはり珍しい。(実はF先生も結構アドリブで描いてたらしい。特に大長編ドラえもん。意外だけどね)
まあ全体の構想を決めてから、というか「オチから逆算して」ってやり方の方がやりやすいし普遍的です。

宮藤官九郎の最新作「ごめんね青春!」を見ててね、これはオチから逆算して作ってる悪い部分が出てしまったと思ったわけです。
クドカンドラマは視聴率がイマイチ取れないことで有名ですが、今までいろいろ見る限り、どうも序盤がイマイチなんですよ。
後半になるにしたがって伏線が昇華されて、再見に耐える作品になっていくのですが、前作の「あまちゃん」でも最初のひと月くらいは、どうもモゾモゾしてた。伏線を割れない感じが前面に出てきてしまってました。

これは野球の先発ピッチャーと似ているかもしれません。
完投を計算して球数を考えながら投げると、どうしても立ち上がりが悪くなる。打者とのかけ引きでも、勝負球から逆算してやろうとすると初球は甘い球になりやすい。
アタシは「クドカンドラマは最初はつまらない」という感覚かあったので、我慢して見ましたが、だいぶ視聴者を失ったのも事実だと思うのです。

いや、もしかしたらクドカン自身も「自分は立ち上がりが悪い」という自覚があったのかもしれません。だから特に初回は、必要以上にヒリヒリした展開にしていた。
しかし上手くいったとは言い難く、あれだけヒリヒリしていたのに、突然気の抜けたような雰囲気になってしまった。緩急は大事なんだけど、どうも「唐突に雰囲気が変わった」とこばかりが目立ってしまった、というか。

いやね、アタシは「モゾモゾした立ち上がり」を否定してないんです。たしかに視聴率は取れないかもしれないけど、これはこれで持ち味だと思うんですよ。どうせDVDは売れるんだし、正直もっと開き直ってほしかった。
「ごめんね青春!」は全体としては悪くないドラマです。役者もハマってるし、演出もいい。でもちょっと余計なこと、は言い過ぎかもしれないけど、立ち上がりの悪さを克服しようとしてもっと悪くなっちゃった、みたいになってしまったのは惜しい。

せっかく「あまちゃん」でクドカンドラマはこんな感じだよねって広く認知されたのに、なんだかもったいないことしちゃったな、て思ってしまうのです。







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