こんなん勝てるわけないやん
FirstUPDATE2014.6.10
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 アタシは子供の頃から、親に限らず周りの大人たちから「あんたは不器用だから」と言われ続けてきました。
 なるほど、たしかにアタシは不器用を絵に描いたような子供だったことは否定しない。何か食べてもポロポロこぼすし、ハサミで紙をまっすぐ切ることも出来ない。ま、自分でも認めざるを得ないっつーか。

 しかしあまりにも言われ続けたことによって「自分は不器用なんだ」という思い込みが強くなりすぎて、これがサラリーマン時代、自分を苦しめることになります。
 自分は不器用である→自分が出来る程度のことなら他の人は簡単に出来るはず→出来るはずなのに何故やらない
 というスパイラルに陥ってしまったのです。
 しかし後になってよくよく考えてみると、アタシが不器用なのは「手先」の話で、もっと広い「仕事」となったら、わりと器用にこなせる方だと気づいた。つまりそれなりに順応性があると。

 だったら不器用なのは手先だけで基本は器用なんじゃね?となるのですが、実は先の例で「やっぱり不器用じゃん」ってことが隠されている。
 つまりアタシは「他人(この場合は部下)に出来もしないことを強要した」ってことになる。無意識に(というか自分が不器用だと思うあまり)他人を傷つけたことになる。
 そうなんです。アタシは人間関係も、かなり不器用なんです。
 
不器用の要素=手先、人間関係
器用の要素=仕事への順応性

 
 と考えたら、1対2で、結局「不器用」になるんじゃないかと。

 さてさて、急激に話は変わりますが、アタシは2012年から2013年にかけてロンドンに滞在していました。
 ま、いろいろと込み入った事情があるので滞在の理由は書かないけど、イギリスとはいろいろと縁があったことも事実でしてね。
 例えば、これまた詳しくは書けないのですが、2000年頃から親類がイギリスの某研究機関で働いていたりします。ま、名前を出せば誰でも知ってる、つかノーベル賞を受賞した人さえいっぱいいるような超一流機関です。
 その親類の彼からいろんな面白い話を聞いたんだけど、一番感心したのは「どこの研究室にもひとりは日本人が必要だ」と言うんですね。

 何故日本人が必要かといえば、早い話が手先の器用さが求められる作業は日本人でないと務まらない、ということらしいのです。他のアジア人ではダメ。日本人でなければいけないと。
 たしかに日本人の手先の器用さは有名です。日本では手先の不器用さで右に出る者はいないレベルのアタシでさえ、海外に行けば「どっちかっていうと手先が器用な方」で通ってしまう。
 実際ね、ガイコクジンの前で折り紙で鶴なんかを折ってみせるとビックリされるのですよ。
 もちろんたいして綺麗に折れてるわけじゃあ、ないんだけど、何故か一時期折り鶴に異様にハマってたことがあってね。もうレシートから何から全部折り鶴にしてた、なんてことがあったから、器用とかという問題ではなく、単に手慣れているだけの話だったんですが。

 しかし海外で折り鶴が折れたからって、別にエラいことはない。ほんの一瞬感心されるだけです。アタシは研究機関に勤めているわけじゃないし、もう、ごく普通の「語学留学に来た(留学というわりにはヤケにトシを食った)日本人」として過ごしていたら手先の器用さが役に立つことなんてほとんどないしさ。
 当時、つまりアタシがロンドン滞在中に借りていたフラット(アパート)の最寄駅はハマースミス駅でした。
 ロンドンのハマースミス、と聞いて大抵の人は、いや大抵はわからないっつーか知らないか。でもブリティシュロックが好きな人ならまず「ああ、ハマースミスアポロのある」と思うと思います。

 ハマースミスアポロはロンドンでも有数の大劇場で、歴史もあれば規模も馬鹿デカい。何しろ最大収容人数が5000名ってんだからすごい。かのビートルズもここで演奏したことがあるらしいし。
 このハマースミスアポロはハマースミス駅から歩いて数分、いや出口さえ間違えなければ1分もあれば着きます。
 しかし残念ながらアタシは一度も足を踏み入れたことがない。毎日前を横切っていたにもかかわらず。
 アタシが興味を惹くような公演をやってなかったし、何より高かった。だからアタシの中でハマースミスアポロはぜんぜんハマースミス駅周辺のイメージじゃないんですね。

 ではアタシのハマースミス駅周辺のイメージは、というと、ロンドン市街地でそこまで規模が大きくないのに、ここまでひと通り何でも揃う街もないんじゃない?みたいな感じなんです。
 ハマースミス駅は間違っても<外れ>ではありません。何たって天下無敵のピカデリーラインの駅だからね。
 ピカデリーラインってのは東京なら丸ノ内線か銀座線、大阪なら御堂筋線に相当する主要地下鉄線で、ヒースロー空港からハマースミスを通って、中心地と言えるピカデリーサーカスやコベントガーデンを通り、北の、そしてヨーロッパ全土の玄関口と言えるキングスクロスにまで行き着く。まさに大動脈と言える路線です。

 ハマースミス駅はちょうどヒースロー空港とピカデリーサーカスの中間にあって、どっちに行くにも30分で行けるという便利さ。
 だから今でもロンドンに行く時はハマースミス駅周辺のホテルをとる。長時間フライトで疲れてるから30分で最寄駅ってのが気分的にラクなのです。
 そして何より買い物で困ることがないのもありがたい。
 スーパーならセインズベリー、テスコ、マークスアンドスペンサーがあるし、カフェもスタバもコスタもカフェネロもある。日本で言う100均に相当する1ポンドストアのポンドランドもあれば、ジーユーやしまむらに相当するプライマークもある、といった具合です。


 そう言えば、もうブームさえ終わったみたいだけど、一時期日本で話題になったタイガーっていう雑貨屋もハマースミスにあってね。ここ、本当に便利だったんです。
 いや自分では使わないんだけど、オシャレ小僧たちのお土産としてこんな相応しい店もなかった。しかも安いし。
 ところが日本に進出してしまって、もう使えない。タイガー?ああ、フライングタイガーでしょ?もうどこでもあるよね、と言われてお終いになってしまいましたが。

 そんな感じで、こと買い物に関しては便利この上ないし、交通の利便性もすこぶる高いハマースミス駅周辺なのですが、とはいえオカシナ人がいなかったわけじゃない。
 どう見てもホームレスなのに、やたら大きい犬を飼ってたり。自分はみすぼらしい格好なのに、犬はすごいあったかそうな毛布を巻いてもらってたりして。これはむしろいい話か。
 もうひとり、たぶんこの人もホームレスだと思うんだけど、結構年配の黒人でね。困るのがやたら通行人に喋りかけてくるのですよ。これにはさすがにみんな迷惑そうにしてる。ま、当然ですわな。

なんといっても忘れられないのは、敗戦から一ヶ月目くらいのころ、(中略)背中のほうで朗々たる唄声がきこえる。卜全(筆者注・左卜全)だな、とすぐにわかったが、話すこともないから、そのままゆっくり歩いた。卜全は足がわるいから歩行がおそい(松葉杖はこのときついてなかった)。都電も復活してないし人通りもない。切れた電線を避けながら、彼は声量のある声で(帝劇ローシーオペラ出身だ)ベアトリ姐ちゃんをくりかえし歌う。そのうち歌詞が同じなのにあきたらしく、アドリブで思いつきの歌詞になる。それが目茶苦茶で、おかしい。
(色川武大著「なつかしい芸人たち・本物の奇人」より)


 こういう決めつけは良くないと思うんだけど、そのホームレスもたんにホームレスというだけでなく、おそらくちょっと、いやかなり、か、左卜全同様の奇人だったんでしょう。ちなみに左卜全は先の著書によると自ら「脳に病いがある」と自覚していたそうですが。
 そしてこのホームレスも左卜全と同じく、時たま『朗々たる』声で歌いながら歩いてたりするんだけど、これが本当にすごいんです。
 何がすごいって、もうめちゃくちゃ上手い。マジで半端じゃないレベルで上手いんです。声量といいリズム感といい、日本のストリートミュージシャンが鼻くそに思えるくらい上手い。
 そのホームレスがね、一度呼び込みの姉ちゃんに絡んでいって、その姉ちゃんの売り文句を片っ端からラップにしていくんだけど、もう心底ビックリした。

 ・・・何これ?

 今その場で聞いた売り文句をそのままリズムに乗せてるだけだよね?
 じゃあ何でそんな上手いんだ!
 そんでもって何でこんなにカッコいいんだ!

 アタシはそんなにヒップホップを聴く方じゃないけど、もしかしたら今まで聴いたラップの中で、あの黒人のホームレスが一番上手かったかもしれない。
 もうね、その時はオカシナ人ってのがどっか吹っ飛んでいって、思わず聴き入ってしまったんですよ。こんなこと日本のストリートミュージシャンで一度もないのに。

 最初の話に戻ります。
 たしかに日本人は手先が器用なのかもしれない。それも図抜けたレベルで。
 まったくの素人考えなら、それだけ手先が器用なら楽器演奏なんか得意中の得意のはずで、つーことは日本人が世界的名奏者を独占してなければおかしいんですよ。
 ところがそうはなっていない。クラシックは明るくないのでわかりませんが、ロックやジャズをはじめとするポピュラーミュージック界では「相手にもならない」って感じだと思う。もちろん悪い意味で。
 これ、ずっとフシギだったんだけど、オカシナホームレスを目の当たりにしてすべてが氷解した。ホームレスは楽器じゃなくて歌とかラップだけど、それでも「何故日本人が敵わないのか」は嫌ってほどわかりました。

 やっぱ、身体に内包されている、後付けではない本質的なリズム感がまるで違うんだなと。例のホームレスは黒人だったからとくに優れていたのかもしれないけど、贔屓目で見ても日本人は相当リズム感が悪いのでしょう。しかも民族的な問題だから努力でなんとかなるもんじゃないし。
 しかし世界でもトップクラスの手先の器用さがありながらってのがね。ま、こればっかりは負ける勝負はしないってことでいいんでしょうが。

いっこぐらいロンドンネタも入れておこうと。
これ結構引用する機会があるので、本サイトに置いておいた方が何かと便利だなってのもあったし。




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