久々に劇場で「七人の侍」を見てね、中学生の時だったかな、ちょうどリバイバル上映があって観に行ったんだけど、それ以来ってことなんですが。もちろんビデオやDVDは何度も見たんだけどね。
観る前はいつも同じこと思うんですよ。
「歴代邦画ナンバーワンとかいわれてるけど、それほどのモンかね?」と。
んで観終わった後はいつも、熱病におかされたみたいになって、もうひたすら「面白い!」だけ。
とにかく信じられないくらい面白い。作品の出来るまでの経緯や、実際どういうテクニックで撮られた映画とか、もうホントにどうでもいい。ただ、とにかく、面白い!ってだけで。
前に書きましたが、アタシは映画とかを見た後「屁理屈で分析してひとり合点で納得する」という変な癖があるのですが、それが出来ないんですよ。どこがどう凄いとか、ね、そんなんしようとする気にすらならない。こんな映画は洋画邦画通じて、「七人の侍」だけ。
だから永遠に分析なんかできない。それどころか分析してあるのを読んだりしたら「お前ホントにこの映画を観たのかよ。観たら冷静に分析とかできないはずだよ」とすら思っちゃう。
じゃあ熱が冷めた頃なら分析できそうなもんですが、これがこの映画の凄いところで、スカッと忘れてしまう。さすがに大筋は覚えているけど、細かいシーンは何も覚えていない。
これは完全にエンターテイメントになってるからなんですね。変に後に残らず、せいぜい残るのは「やたら面白かった」ってことくらいで、残りは綺麗さっぱり忘れてしまう。
娯楽映画で引っかかる部分は、娯楽になり切れてない部分なわけで、それがまったくない、まさに空前絶後の娯楽映画なのです。
別格ってのは、そういうことなんです。黒澤明の映画で何が好きっていわれたら「酔いどれ天使」か「生きる」になってしまうのですが、他の黒澤映画はどっちが良かったとかの比較はできるのですよ。内容も細かく覚えているし。でも「七人の侍」に限っては覚えてないもんだから、別格として扱わざるを得ないのです。
あんまり覚えてないのもシャクなので、メモ的に何か記しておきたいなと。そこで質疑形式で。
◇ やっぱり207分て長い?
もちろん「面白いから時間があっと言う間に過ぎる」ってのはある。それよりインターミッションの入るタイミングが絶妙。
それに丹念に描くところはとことん丹念なんだけど、スパッといくところはホントにスパッといくからやたらテンポ良く感じる。200分以上あって、それこそ三国志みたいに入り組んだ話じゃない、むしろ単純明快な話なのにテンポがいいと思わせるのは凄すぎる。
◇ 映像が凄い
それはもう、ね。何より凄いのは途中からカラーに見えること。山々が濃いグリーンに見えてくるのはどうしたことだ。
◇ セリフは聴き取りづらい
黒澤映画はセリフが聴き取りづらい、のはもはや当然。昔リバイバル上映で観た時よりはデジタルリマスタリングのおかげか、まだマシ。
つか、何というか、洋画を字幕なしで観てるような気分になる。むしろ「字幕なしでも意外とわかるもんだな」と思ってみた方がいい感じ。
◇ 気になった役者は
意外にも加東大介。今ああいう役者はいそうでいない。
もちろんミフネも左卜全も高堂国典もいないんだけど、あの辺は探そうと思わないレベルでいない。加東大介はもしかしたらとは思うけど、やっぱりいないんだよな。
加東大介自体、ホントいろんな映画で見るけど、全部印象が全然違うってのが凄い。もし自分が監督なら全部の作品に出て欲しいと思える役者。
逆に今の役者でできそうな役って木村功と津島恵子の役だけじゃないかな。
◇ 他に凄いと思ったところ
ふたつに絞ってみる。
ひとつ目は、敵方の描写が全然ないこと。普通は悪役のキャラクターが際立ってこそ面白い作品になるもんだけど、これは例外中の例外。
もうひとつは、たぶんこんなに登場人物が笑ってる映画はないんじゃないかね。
巻頭、いきなり慟哭から始まるんだけど、だんだんムードが柔らかくなって、特に、もう野武士は来ないんじゃないかと言い合っているシーンのマッタリ感は半端じゃない。というか合戦の前に一度緩めるだけ緩めるのが凄い。
実は人が死んで思い出すのは、その人が笑ってるシーンなんだよな。だから浪人たちが次々死んでいくシーンで余計胸を突かれる。
◇ 最後になにか
他はともかく、これのリメイクだけはやめとけ。