君はかぶと虫太郎を知ってるか
FirstUPDATE2014.2.6
@Classic #アニメ・漫画 #映画 #藤子不二雄 @戦前 #1980年代 単ページ うる星やつら 高橋留美子 こける ヒロイン @エノケンの猿飛佐助 名探偵コナン パーマン かぶと虫太郎 少年キング こてんぐテン丸 ベムベムハンター

 今考えてみるに「うる星やつら」ってのは相当特異な作品だったとあらためて思うわけですよ。
 連載開始の経緯もそうだし、作者が女性でありながら、そのギャグへの意識の高さだったり、実はストーリーテラーだったりね。

 「うる星やつら」は短期集中連載→本格連載の初期の頃までは完璧なるまでのギャグ漫画でした。
 当然用意された設定やストーリー展開はギャグのためのものでしかなく、笑わせることが出来れば細かい辻褄は気にしない、というのが徹底されていた。
 しかし人気がうなぎのぼり、となると連載の長期化は避けられないわけで、純粋ギャグ漫画として続けるのは如何にも苦しくなってきた。とくに「うる星やつら」のような「笑いのためなら世界観の破壊も厭わない」タイプの作品はどうやっても長期連載に向いてない。
 そこで、かはわからないけど、少しずつモデルチェンジを図りだしたのは単行本を読むだけでわかります。具体的にはラムとあたるの関係を軸にラブコメにシフトさせていったんですね。
 これは悪い判断ではない。高橋留美子によって描かれた女性キャラは魅力的だったし、人気と作品のクオリティを保つのには唯一といっていいくらいのやり方だったと思う。

 ただ、弊害っつーか、とんでもなく大変なことが出てきてしまった。
 ギャグ作品とコメディ作品は違います。ギャグはその場限り、笑わせたら勝ちの世界だけど、コメディはまずストーリーありきで、そこに世界観を壊さない範囲で笑いを足していく。
 ラブコメ=ラブコメディなわけだから、「うる星やつら」はギャグ作品からコメディ作品への転換を余儀なくされたっつーことになる。
 しかしギャグ作品には整合性なんて関係ないわけですよ。それをコメディ作品にするには一度自ら破壊した整合性をとっていかなきゃならないことを意味する。
 例えば初期、つまりギャグ作品時代に、あたるとしのぶの間に将来「こける」という子供が生まれる話がありましたが、ギャグではなくコメディならこんな話は邪魔なだけなんですよ。
 終盤になって「初期のとっちらかった設定の辻褄合わせ」が散見するようになりますが、あれは大変だっただろうなァと。

 それでも完全に整合性が取れたわけでもなく、一番の問題はラムというキャラクターです。
 高橋留美子自ら「今まで作ったキャラクターで自分でもよくわからないのがラム」と語っていましたが、たしかにラムには確固たるアイデンティティみたいなものが見えないのです。つまりラムだけずっとギャグ作品時代を引きずっていたっつーか。
 結果、過去にも、いや「うる星やつら」以降の作品からも、ラムに近しいタイプのヒロインってのが存在しないことになってしまった。
 ヒロインってのはね、<型>があって基本的にはほぼ2つのタイプに集約されている。「清純型」か「バディ型」のどちらかです。
 どっちが多いのかは調べたわけではないのでよくわからないのですが、たぶん五分五分なんじゃないかと。アメリカ映画なんかだとバディ型の方が多いと思うけど。

 中には清純型とバディ型の両方が登場する作品もあったりします。
 アタシがパッと思いつくのは藤子・F・不二雄の「パーマン」。清純型がみっちゃん、バディ型がパー子ですね。あとあんまり知らないんだけど、たぶん「名探偵コナン」も両方出てくると思う。
 しかしひとつの作品で両タイプを出すとバディ型の方が圧倒的に人気が出る。
 というか清純型ってのは実は相当難しいんです。
 明るくて清純で、一途に主人公のことを想い続ける、みたいな感じなんだけど、まさにフィクションの中にしかいない女性であり、キャラクター付けをしようと恋への障害を設けると清純型から外れてしまいやすい。つまりヒロインをヒロインたらしめるエピソードが作りづらいんです。
 一方バディ型は障害があればあるほどキャラクターの深みが出るし、型からも外れないからね。

 映画のような一話完結だったり、漫画でも短期連載、あとヒロインの存在感は希薄で良い、なんて作品なら清純型でもいいんだけど、長期連載の作品ならバディ型の方が向いている。つか長期連載ならバディ型しかない、とすら思えるわけで。
 では他にタイプがないのか、というと「妖精型」なんてのもあることはある。思いつくのが野部利雄の「のぞみウィッチィズ」とか。たしかにこの作品でヒロインは妖精型と呼べるキャラクター造形がなされていましたが、連載が長期化に及ぶとヒロインの存在感がどんどん希薄になってしまいました。

 個人的に珍品中の珍品だと思うのが、戦前に作られた映画「エノケンの猿飛佐助」で、ヒロインは敵方の姫、そしてスパイとして登場するのです。
 演じたのは梅園龍子。かつてエノケン(榎本健一)が代表をつとめたカジノフォリーに在籍した人なので、エノケンとのアンサンブルはとれています。
 ただこの梅園龍子って人、美人は美人なんだけど、如何にも気が強そうな美人で、まさか寝返る、つまりヒロインになるとは思わなかった。アタシも完全に騙されましたよ。
 ただ「エノケンの猿飛佐助」にしたところで映画だから使える<手>なわけで、長期連載漫画ならこんなことは不可能です。
 となるとどうしてもバディ型ヒロインが氾濫してしまうっつーか。

 さてさて、みなさんは「かぶと虫太郎」という漫画家をご存知でしょうか。
 漫画家珍ペンネームとなると必ず名前が挙がるような人ですが、いやそうでもないか。近年までWikipediaの項目すらなかったし。今でも生年月日等が未記載だしね。
 たぶん一番有名な作品は「ベムベムハンターこてんぐテン丸」でしょう。これはアニメにもなりましたからそれなりに知名度もあるはずです。(ま、アニメはすぐに終わったけど)
 あとは週刊少年キングの休刊号まで連載されていた「乱丸ちゃん爆弾」かな。ただしこれはあんまり知らない。

 「こてんぐテン丸」の方はちょっとだけ憶えている。アニメはほとんど見なかったから漫画の方ね。
 連載されていたのがコミックボンボン、つまり児童向け漫画誌、もっと平たく言えばコロコロコミックのライバル誌ですが、だからかギャグに比重にかかったような作風だったように思う。
 ところがアニメの方は完全に「ドロロンえん魔くん」の路線で、妖怪とのバトルに比重を置いた、つまりアクションがかっていたように記憶しています。(どちらも東映動画制作)

 しかしアタシには「かぶと虫太郎と言えばコレ」と思える作品が別にあるんですよ。
 あれは1982年、つまりアタシが中学生の頃の話です。
 週刊少年キングが休刊になったのは知っていて、というのもアタシが敬愛する藤子不二雄A(当時は藤子不二雄名義)の「まんが道」が連載されていたから。
 ああ「まんが道」が終わったのか、しかも雑誌の休刊という形で。何とも残念だなぁと思っていたら、隔週という形態で「少年KING」なる雑誌が新創刊されることを知った。

 当然ね、そこで「まんが道」の続きが連載されるものだと思っていたんですよ。ところが何をどう間違ったか、いや別に間違えてはないけど、藤子不二雄Aの新連載は「まんが道」ではない。何と「フータくん」だという。
 「フータくん」!!!。新連載のタイトルは「フータくんNOW!」だけど、アタシが全藤子不二雄作品の中でも一番好きだった「フータくん」がリメイクされる!当時アタシは狂喜乱舞しました。
 「フータくんNOW!」は少年KING新創刊号の表紙&巻頭カラーという別格扱いで始まったんだけど、人気がなかったようですぐに終わった。ま、個人的にもあんまり良い出来とは思えなかったし、これはしょうがない。

 それでもアタシは毎号少年KINGを買っていた。隔週だからフトコロにも優しいし。もちろん買ってたのは「フータくんNOW!」の連載が終わるまでだけど。
 いくら「フータくんNOW!」だけが目的とは言え、せっかく買ったんだから他の作品も読みます。当たり前ですが。
 その中にね、かぶと虫太郎の連載もあったんですよ。
 しかしこのタイトルがわからない。それでも必死で検索を繰り返し、ついに判明した。そのタイトルとは!

「もんもん★マリア」!!!


 ・・・ったく、だからなんなんだって話です。
 「もんもん★マリア」は別に隠れた名作でもなんでもない。ぶっちゃけて言えば「うる星やつら」のバリエーションみたいな設定で、設定のみならず「アホのあたる」をそのまま使った「アホの◯◯←男主人公の名前。忘れた」なんか、読んでるこっちが赤面する思いでしたし。
 それでも「もんもん★マリア」が奇妙なほど記憶に残っているのは、男主人公の幼馴染の女の子がすごく良かったからなんです。

 ラムに相当する主人公のライバル的存在で、しかし初期のしのぶとはあきらかにキャラが違う。お嬢様なんだけど、過去に暗いことがあって、人の嫌がることを自らすすんでやる、みたいなキャラでした。アタシはもの憂げな表情が印象に残っています。
 これもうろ覚えですが「ベムベムハンター」のエピソードで、テン丸(アニメ化前まではたしかテン坊って名前だった)の母親がブス(人間基準でみれば美人だけど天狗基準では人間並に鼻が低いためブス扱い)ってのもよかった。
 かぶと虫太郎はギャグやアクションより、陰のある女性を男性がグッとくる感じで描ける人だった。「男性がグッとくる感じ」っていう古臭い表現を今様に直すと、それは<萌え>だからね。

 たぶんかぶと虫太郎って人の本質は<萌え>だったんだろうな、と思う。
 時代が早すぎたために「うる星やつら」のバリエーションみたいな中途半端な作品になってしまって人々の記憶から消えてしまったけど、もし今の時代に、今風の絵柄でやればオタクの心を捉えることが出来たんじゃないかと本気で思う。
 一番難しいはずの清純型ヒロインをあれだけ魅力的に描ける人とかそうはいないよ。そう考えると本当にもったいないっつーかね。

ずーっとカバー画像が「ベムベムハンター」だったのが引っかかってたんだけど、2020年に神保町に行った時に「少年KING」を購入して、ついに「もんもん★マリア」に差し替えました。
その「もんもん★マリア」ですが、あらためて読み返してみると、たしかに古いけど悪くはない絵なんですよ。ただ結局は設定がね。「うる星やつらを子供向けにしました」ってのが拭えてないもん。




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