胸元の開いた服を着た女性を見ると、つい目がいってしまいます。というのは40をすぎて情けない話だけど、まぁ根がスケベだからしょうがない。(現注・50をすぎても一緒です)
スケベにも上手い下手があるようで、上手い人になると、ホントに何気なく、さりげなく、胸元に目をやることができるようです。
ところがアタシときたら、たいして見てるわけでもないのに、まるで凝視してるかのように思われてしまう。こういうのを「下手なスケベ」というのでしょう。見ている秒数は「上手いスケベ」と変わらないはずなのに。
ま、上手かろうが下手であろうが、スケベであることには変わりがない。これは大多数の男性に当てはまることだと思う。
ところが、です。中にはスケベでない、というか、性欲が極端に少ない人もいるのですな。というかひとりいた。
彼は大学の後輩にあたるのだのだけど、性欲がほぼ皆無というか、そういうことに超然としていた。
性への対象が一般女性以外にあるタイプでもないし、うち解けた間柄にまで隠すようなとんでもない性癖を持っているわけでもなさそうで、もう単純に性欲が薄いとしかいいようがない。
もちろんまったくないわけじゃないけど、携帯電話の電波にたとえるなら、圏外とまでいかなくても、アンテナが0本の状態、と思っていただければいい。
性欲がないだけで、彼はけして無気力な人間ではありませんでした。
大学時代の彼は映画を撮ることに情熱を燃やしていた。そして趣味への探求心もハンパではなかった。それをハタで見ていたアタシからすれば、それだけのエネルギーがよく沸いてくるな、と感心するしかないほどで、うっすらと、もしかしたら性欲が表現欲や探求欲に割り振られているだけなのかもしれない、そう考えるしかないほどのパワーがあったんです。
表現欲や探求欲はけして悪いことじゃないし、大学生活においてはむしろ非常に重要なことであるとさえ思う。しかしもうひとつ、彼には困った欲望があったのです。
「名誉欲」というヤツです。
実際、これには少々閉口させられた。いや、おぼろで見ている分にはいいんだけど、何かを一緒にやるとなると、彼の名誉欲がチラチラ顔を出してくる。その結果、うまくいくものもうまくいかなくなる。そういうことが何度かあった。
一度、この名誉欲のおかげで、腹に据えかねる事態が起こったことがあり、まぁそれだけじゃあないんだけど、何となく彼と疎遠になってしまった。
それから10年近い年月が経ちました。
アタシはブログを書く人間になっていた。といっても日常を綴る生活雑記ではなく、とある趣味について書き殴っていたわけで。
最初は本当に細々とやっていたんだけど、そのうち某巨大掲示板にコピペされるぐらいにはなってきた、ちょうどその頃だったと思う。例の彼からメールが来た。
ブログに書いたことのうち、5分の1ぐらいは同じ趣味だった彼にも話したようなことだったわけでね、ま、人間の考えなんて10年やそこらで変わるわけがない。
だから偶然アタシのブログにたどりついて、読み進めるうちにピンと来たのでしょう。
しかし自分はいい先輩になれなかった。
私は○○(現注・アタシの本名)ではありません、人違いでは?というような返信をしてしまった。といっても本当は○○だけど、というニュアンスを含んで書いたつもりだけど。
なぜそんな内容のメールを送ったか、理由はいろいろあるのですが、正直今更、彼に限らず、昔の知人と交友を復活させたい気持ちになれなかったことが一番大きい。
それなら返信などせずに無視すればよかったんじゃないか、と思われるむきもあると思う。それはわかっている。
でもどこかで彼のことが引っかかっていた。はっきりいえば、どうしても聞きたいことがあった。
そう、それこそさっき書いた「欲」に関して。
まだ性欲はあまり持ち合わせてませんか?
名誉欲は薄くなりましたか?
また何か新たな欲望が沸いてきましたか?
彼からさらに返信が来た。そして上記のような質問をしようと思った。けどやめた。
どう考えても、彼を満たすような名誉を彼が手にしているとは思えないし、興味本位で聞いてしまうと、ものすごく彼を傷つけてしまうような気がしたのです。
もう彼と会うことも、メールでもやりとりすることもあるまい。でも本心はやっぱり知りたい。
なぜなら彼は、アタシが今まで出会った中で唯一の性欲がない人間だから。そういう人間がいったいどういう人生を送っていくのか、自分の中にある知りたい「欲」は消えないのです。