その日ふたりの男は疲れ果てた表情で、公園のベンチに座っていた。
と書くと三文小説の出だしみたいですが、だいたいこんな感じだったと思う。ひとりは自分。もうひとりは自分より10歳若い、まぁいや後輩です。
とにかくふたりとも疲れ果てていました。さんざん歩き回った上、直前に不快なこともあったし。正直会話する気力も失っていた。
突然、後輩の男はぼそぼそと喋りはじめた。
「この公園、○○(某テレビ局)しかロケで使えないんです」
そうなのか。そういえば○○局しかロケで使ってるのを見たことがない。
「そうなんだ。知らなかった」
「・・・・嘘です」
うーん、冗談になってない。笑えないどころか怒りすらこみ上げてくる。
その時は怒る気力もなかったのだけど、その公園に行く毎に、この時の会話を思い出して、怒りがこみ上げてきます。
それはさておき、ジョークとしての嘘というのは本当に難しい。さきほどの事例のように、一歩間違うと相手の怒りを買ってしまうことだってあるわけで。
そんなことをいいながら、かつてはアタシもくだらない嘘をよくついたもんです。しかもたんなる思いつきなので、根拠もへったくれもなく、ただその場で理屈をひねり出す、その程度のもんです。
今から20年ほど前(現注・1991年頃だったと思う)、なにぶん古い話です。友人の女性とファミレスに行った時のことです。
おそらくご飯時ではなかったはすで、自分は当たり前のようにコーヒーを注文した。
ウェイトレスがコーヒーをテーブルに運んでくるやいなや、突然その女性が自分の前に食塩を差し出した。
「○○さん(現注・アタシのこと)、コーヒーには塩を入れるんですよね」
は???そんなことをするわけがないではないか。コーヒーに塩を入れるなんてヤツ本当にいるのか?
「でも○○さん、前にコーヒーには塩だって。その方が身体にいいからって」
困った。言ったかもしれない。たぶん元ネタは藤子・F・不二雄氏のSF短編「定年退食」です。たしかにそんな展開があった。
おそらくこのネタを引用して、適当にそれらしい理屈をつけて吹聴したのだと思う。
それはわかった。でも実際何にもおぼえてないのだ。いかにもアタシがいいそうな嘘なのはたしかだけど、その時の状況がさっぱり思い出せない。しかたがない。とりあえず、ああそうだった、やっぱ塩だよね、と適当に取り繕うしかなかったわけで。
しかし悲しきかなは自分の記憶力のなさよ。これほど記憶力の悪さを恨んだことはない。
この件で学んだことは、覚えられない嘘はつかない。あとでフォローできなくなっても知らんで~!