鈴木島男の失敗の秘密
FirstUPDATE2005.6.24
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はい、令和からこんにちはなのですが、このエントリは若干の例外に該当するので最初に説明させていただきます。

過去エントリをScribble化するにあたり、連作として書いたものは基本的にすべてオミットする、という縛りを入れたのですが、連作まで入れてしまうと趣旨が変わってしまう、そして収拾がつかなくなるのでそうした縛りを入れたのです。
しかしこれは例外で、連作と言ってもたった2回であること、そして今後一切リライトする予定もなければ、そもそも後年になってリライトする意味なんかまるでないエントリだからね。
つまり「良い意味で時代感が表出したエントリ」なので、あえて入れた、という寸法です。

そんなわけで、2005年6月24日とその翌日25日にアップしたものを合体させています。ではどうぞ。

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そういえば昔こんな小説のアイデアをあたためていたことがありました。

主人公は小学生のとき、マイコン雑誌にプログラムを投稿し、一躍天才プログラマーと評判をとる。が、現在はSEとして働くしがないサラリーマンでしかない。
主人公がゲーム製作から離れたわけは簡単だ。
かつてはゲームデザインからグラフィック、サウンドはプログラマー自身が作成するのが常識だった。しかしゲーム市場が大型化し、パソコンやゲーム専用機の性能が向上するとともに作業の分業がすすむようになる。
ところが協調性のない主人公にはこれが耐えられなかった。自分の意志で決められないことが多くなりすぎたのだ。やむなく彼はゲーム業界を離れる。
そんな事情を知ってか知らずか、そこにとあるゲームソフトメーカーが彼にゲーム製作のオファーをだす。ゲームメーカーは「伝説の天才プログラマーが復活!」との謳い文句がほしかったのだ。そこで彼は・・・

みたいな話です。これにはアタシが当時愛読していた「I/O」というマイコン雑誌で天才の名をほしいままにしていた芸夢狂人氏や、現在もチュンソフトの代表で活躍されている中村光一氏、そして「タイニーゼビウス」の作者として世間をあっといわせた、当時小学生だった天才プログラマーの某氏(現注・松島徹氏のこと。「小学生だった」と書いてあるのは記憶違いで、実際は中学生だった)など、マイコン世代のヒーローがごちゃまぜにモデルになっています。
アタシは「恋におちたら~僕の成功の秘密~」の第一話をみて、すぐこの話を思い出しました。と同時に沸々と怒りが沸いてきたのです。

「これやったら自分の考えてたプロットの方がよっぽどおもろいやん!しかも先にされたら真似にみえるから、発表でけへんやん!!」

「恋におちたら」は出だしから失敗の連続でした。正直いって、最初の5分みた時点で「こりゃヤバそうな雰囲気やな」と思ったら、見ていくうちにそれがどんどん酷くなって。
いやね、あきらかにおかしいところは山ほどあったんですよ。
「押し入れから引っ張りだしたパソコンにいきなりネットがつながっている」
とか
「何年もやっていない天才プログラマーより、ずっと現場にいたSEの方がよほど役に立つんじゃないの」
とか。
ほかM&Aとかその辺でも、甘いというか突っ込みどころは満載です。
しかしそんなことはこの際どうでもいい。
それよりフィクションをつくるに当たって、決定的なミスをいくつもやらかしているんですよ。

まず主人公の鈴木島男、この男の目的がまったくわからない。
「自分の家を守るため、金が必要」だったのか
「カオリという女性を手に入れる」ためだったのか
「かつて夢みたIT(ってのもホントは変なんだけど)で成功したかった」のか
どれもそうともいえるし、違うともいえる。

実生活で「Aをやりたくて、とある会社に入ったのに、Bがおもしろくなってきて、結果的にCをやっていた」なんてことはよくあることです。
しかしどうでしょう。これってエンターテイメントですよね。けして実生活ではないわけです。11回ですべてを書き切らなきゃいけないわけです。だったら「最初のきっかけ」はひとつで十分なんじゃないですかね。

タイトルが「恋におちたら」なんだから、主人公が恋におちて、その結果金もプログラマーとしての能力も身につけ・・・とかだったら、おもしろくなるかどうかはさておき、まだ納得できる。
あと、たしか最初のタイトルって「ヒルズに恋して」でしたよね。これでもいいんですよ。高柳という男にあこがれて、とにかくここで働きたい!その動機だけでも十分です。

しかし最初から「これだけIT企業で働く理由がある」とするから話はややこしくなるし、島男の人間性もわからなくなる。
島男がなんのためにがんばってるかが理解できないから、いつまでたっても感情移入できない。草なぎはかわいそうなほど好演してるし、まわりの役者もがんばってるんだけど、どうやっても話にのれない。回を追うごとに、そんな最悪のスパイラルに飲み込まれていきました。

とにかくここまで軸のない話も珍しいというかね。
軸を<IT業界の企業ドラマ>にするのなら、もっと悪役を増やしてドラマをダイナミックに展開していくべきだし、<元・天才プログラマー>を軸にするなら、時代の流れからくるパソコンの性能向上やハッカーとの戦いといった部分にスポットを当てるべきだった。

とくに恋愛ものとしてはちょっと酷くて、まず島男がカオリに恋しているのかどうかがわからない。あこがれてるって描写はあるけどね。むしろ終始惹かれていたのはカオリの方でしょ。
そしてなにより酷いのは、なぜカオリが島男に惹かれるのか、そのバックボーンがまったく書かれていない。だいたいカオリの経歴も家族構成も、フロンティアという会社に入社した経緯も、なぜ高柳の秘書兼愛人(お互い未婚だから愛人って変か)をやっていたのかもまったく書かれなかった。(この辺、島男も高柳も「まったくこだわってない」というのはすごい神経ですよね)
こういうドラマになりそうな部分が山ほどあるのに、全部放棄(放置、といった方がいいか)しているし。

他にも気づいた人はいるだろうけど、2話目を見終わった時にアタシも気づいたんですよ。これって数年前に織田裕二がやった「お金がない!」じゃないですか。たぶん途中から島男のキャラクターが豹変するんだろうなって読めたし。
しかし・・・何が悲しゅうて「お金がない!」の劣化リメイクを見せられなきゃならんのだ?いや、まってくれ。深みこそなかったけど、軸のしっかりした軽いエンターテイメントとして成立していた「お金がない!」と比べるのは失礼な気すらします。

実は近畿地方では「恋におちたら」とかぶせるように「スタアの恋」の再放送をやってたんですよ。「スタアの恋」は実に雑なつくりだけど、草なぎの演技のよさもあって最後まで楽しくみることができました。
だって「スタアの恋」にはちゃんと軸があるもん。主人公の心の動きがちゃんと読み取れる。でも「恋におちたら」はねぇ・・・。
もうね、アタシは稲垣吾郎がやった「ソムリエ」みたいにすればいいと思ったんです。「ソムリエ」が何でもかんでもワインで解決したように、「恋におちたら」も一話完結にして、何でもかんでもプログラムで解決すればいい、と。コメディになっちゃうけど。

はっきりいいましょう。この脚本家には企業ドラマを書くのは無理です。利権であったりインフラの問題だったり、IT業界というのがまるでわかってない。一応取材はしたんだろうけど、全然消化できなかったから、わかったとこだけつなぎあわせてシナリオをつくったんでしょうな。
だったらそんなことはあきらめて「天才プログラマーがIT業界に革命を起こす!」って話にすればよかった。島男が全部プログラムで解決して、まわりのことは脇役が全部やってくれる、みたいにね。

ただ脚本家の能力に見合わないことをさせたプロデューサーの責任もあるわけで、せっかく役者はみんながんばっていたのに、制作側の問題で作品がダメになった典型的な例ではないでしょうか。
そう、個人的に到底おもしろがれなかった「恋におちたら」について、こんだけ長々と書いたのは、あまりにも「連続ドラマが失敗する典型例」だからなんです。

いや、もしかしたら、制作者側は「鈴木島男というネーミングで燃え尽きた」ってことなんでしょうかね。
<鈴木島男>って名前だけは本当にいいですよ。単純な文字の組み合わせなのに、実にインパクトがある。せっかくだからタイトルも「鈴木島男のIT革命!」とかにすりゃよかったんだよ。ったく。なんだよ「恋におちたら」って。わけがわからん。

こんなことがどうしても書きたくて、つまんないつまんないと思いつつ、がんばって最後までみていたんです。最後まで見ないで批判するような真似だけはしたくなかったんで。
でももうこんなことはしません。たぶん。しんどいもん。

これ、本当にフシギなんだけど、時間が経てばクソも味噌も一緒になっちゃうようなところがあって、いまだに草彅剛を見ると「島男だ」と思ってしまうんですよ。
もちろん、こんなドラマ、もう二度と見返したくはないけど、いや、やっぱ見返したいかな。内容云々じゃなくて、つまんないつまんないと思いながら見てたあの頃をまざまざと思い起こしそうだから。




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