ヒカリ射すは水曜どうでしょう、からでしょう
FirstUPDATE2005.5.26
@Classic #テレビ #旅 #1990年代 #2000年代 #2010年代 #2020年代 #YouTube #北海道 #水曜どうでしょう 単ページ 大泉洋 ミスター 鈴井貴之 藤村忠寿 嬉野雅道 編集

 ネットで話題になった、しかしその時点で見てなかった番組を「話題になってる」という理由だけで見始めることはまずありません。
 流されるのが嫌だとかそういうことではなくね、どうも「ネットで話題」ってだけじゃあ、フックとして弱いような。ま、アタシの場合だけだろうけど。

 2004年、というと、アタシにとって停滞のイメージがある年です。
 前年に某広告代理店を辞め、東京から実家のある神戸に舞い戻り、これから何をしていけばいいのか途方に暮れていたんです。
 暇な時間はテレビを見てた。もうその頃にはテレビとかぜんぜん見なくなってたんだけど、テレビでも見てるよりしょうがないって感じで見てたわけで。
 サンテレビでの野球中継を見終わって、消すでもチャンネルを変えるでもなくそのまましておいたら、テレビのスピーカーから気の抜けたような音が流れ出した。

どうでしょうリターンズ

 ああこれが、ネットで話題になってる番組かと。ま、始まったのも何かの縁だと思ってね、そのまま流していたのです。

 アタシの中で「水曜どうでしょう」に関する知識はかなり薄かった。
 「北海道で作られた」「旅番組である」「大泉洋ってのが出てる」この程度です。
 その頃、いや正確にはアタシが某広告代理店で働き始める前かな、とにかく「パパパパパフィー」ってパフィー主演のバラエティ番組があって、そこに「北海道ローカルの大スター」って扱いで大泉洋というタレントが出てたな、と思い出した。
 その時の印象を記せば、大泉洋は如何にも見た目が「ヨゴレ」で(何しろ<勝負服>と称するジャージで出演していたからね)、そこまで面白いとも思わなかったんです。
 実際に「どうでしょうリターンズ」を見てみると大泉洋は二番手で、中心扱いなのはミスターと呼ばれる二枚目の男だった。ところがこのミスターってのがあんまり喋らず、大泉洋がディレクターとずっと喋ってる。
 これ、いったい、何なの?

 アタシがいつも思うのは、「水曜どうでしょう」ってのはどう考えても「普通の番組」ではないわけです。画面に映ってるひとりはほとんど喋らず、もうひとりの画面に映ってる男と画面には一切映ってない男が延々喋る。これはテレビを見慣れた人からしたら違和感がないわけがない。
 だからアタシは「何の予備知識もなしに見たら一回でハマってしまった」なんて話は嘘だと思ってる。そんな敷居の低い番組じゃない。
 「こういうものなんだ」「見続けるといつか面白くなる瞬間がくるんだ」と思ってないと絶対見続けないと思うんですよね。
 それだけの敷居の高さを感じながらも、アタシは土曜日の夜10時になるとサンテレビにチャンネルを合わせ続けた。
 もちろん「北海道製作だから」というのは理由にならない。アタシは今も当時も北海道に縁もゆかりもないし。

 アタシが「どうでしょうリターンズ」、つまり「水曜どうでしょう」を見続けた理由、それは旅番組だからです。
 この頃のアタシは一度しか海外に行ったことがなく、海外そのものにも興味がなかった。しかし国内には並々ならぬ関心があったし、とくに好ましかったのは風景を延々と映してくれるような番組だった。
 アタシが見始めたのは、たしか「原付西日本(「原付西日本制覇」)」の途中だったと思う。テレビの画面には一度通ったことがあるような、あえて通らなかったような景色がずっと映し出されている。トークとかは興味ないけど、映像を見てるだけでも悪くない。下手に観光地とかに行かずに移動だけってのも好ましい。
 最初に書いたように、2004年は相当落ち込んだ年だった。金欠だったし旅行なんて行けない。つまり気分が変わらない。
 そこに現れたのが、見てるだけで旅に行った気になれる「水曜どうでしょう」だったわけです。

 アタシは旅をしても観光地なんか行かないし、記憶に残るのは移動中の風景です。そしてそれをそのままテレビでやってくれている。いわばこの番組は代替行為でさえあったというか。
 その頃アタシは「マラソンチャンネル」なんてのを夢想していました。
 マラソン中継が「すぐ飽きる」か「いつまでも飽きない」かはその時の心境にかなり左右される。どういう心境の時に飽きないかってのは上手く説明出来ないけど、頭を空っぽにして、ただ過ぎ行く景色だけを見てるだけで幸せになる、なんて心境の時は誰にでもあるんじゃないかね。
 だから、もう延々、マラソン中継だけのね、まァスカパーとかで、そういうチャンネルがあればいいのに、と。それだけ過去の大会の映像をストックしてるのか知らないけど。
 「水曜どうでしょう」はマラソン中継ほどではないけど、とくに原付企画の時はかなりマラソン中継に近しい。見ていて不愉快になることがない。つまり代替としてはかなりレベルが高かったわけで。

 アタシがトークを含めた「水曜どうでしょう」全体の面白さに目覚めたのは「原付ベトナム(「ハノイ→ホーチミン 原付ベトナム縦断1800キロ」)」からです。
 何しろ走るのはベトナム。原付西日本の時のように安閑とした気持ちでは見てられない。次から次へとハプニングが起こる。
 そうなると当然「ハプニングが起こった時の心境」を知りたくなるのは人間の性でして、自然とトークに耳を傾けるようになったんですね。
 ちゃんとトークを聞くと、相当面白いことを言ってる。とくに大泉洋のトーク力がすごい。これが、あの、パパパパパフィーにジャージで出てた大泉洋なのか?本当に同一人物なのか?と思うほど面白かったのです。
 んでラストの「自然な涙」はこちらにもグッとくるものがあった。泣かせようとしての涙ではなく、本当に堪えきれなくなっての、というのが本当に良かった。
 しかし、これでこの番組は終わりってことだよな。せっかく面白さに目覚めたのに、何か悔しい、と思っていたら次の週(だったかどうかは忘れたけど、とにかくすぐに)「水曜どうでしょうClassic」が始まった。それも一番最初から!これは嬉しかったなぁ。

 たしかにちゃんと見出すと「水曜どうでしょう」の面白さの核はトークであることはわかってきた。しかし、それでもアタシは「水曜どうでしょう」はやっぱり旅番組だと思うんです。
 そうは言っても「ああ、こんなところに行ってみたいな」と思わせるたぐいの旅番組ではなくてね、もっとオフビートで、「旅の面白さって何なのか」を鋭く切り込んでいるのがすごい。
 個人的に考える旅の面白さとは「期間限定の共有体験」だと思っている。旅の途中で出会った人、出くわしたエピソード、それらは一緒に旅をする仲間との共有体験になる。そういった旅の本質を見せることで、見ている側も、彼ら4人とともに旅をしている錯覚に陥るわけで。
 そういう番組は「傷ついた心」を持ち合わせている時には、ものすごくありがたい。トークによる「笑い」も心の浄化に繋がるけど、何より、もうひとつの癒しのための行動である「旅」をしている感覚になれる、それも気の置けない仲間とともにってのが、すごく良いっつーか。

 さてさて、ここらで個人的な企画ベスト3でも挙げようかと思ったんだけど、ま、「どうバカ」(どうでしょうファンの総称。「藩士」とも言うけど)なら誰でもやってるんで今更だけどさ。
 こういうベスト選出は好み全開でいくしかないのですが、まずあんまり好きでない傾向から挙げます。
 ひと言でいえば、内輪ノリがキツすぎるのはどうも苦手です。
 もちろんアタシも内輪ノリが楽しめるくらいには見てるんだけど、そもそも、どんな番組はおろかどんなシチュエーションであっても内輪ノリ自体があんまり好きじゃないんですな。
 だからヒゲ(藤村D)が無理矢理でしゃばって、無理に喧嘩をふっかけていこうとかは好きじゃないし、どうでしょうノリがわからない人が置いてけぼりになりそうな「対決列島」とか「夏野菜スペシャル」もね、つまらなくはないけど、どうもハマれないんですね。
 アタシが思うベスト3は、もうこの3本しかない。
 
・アメリカ合衆国横断
・ユーコン川160キロ ~地獄の6日間~
・ハノイ→ホーチミン 原付ベトナム縦断1800キロ


 ちなみに順不同というか、単に放送日順に並べただけです。
 すべての面で「水曜どうでしょう」の魅力が詰まっているのは「ユーコン」でしょう。もしベスト1ならアタシは「ユーコン」を推す。初心者に勧められるかはともかく、極めつけと言えるのは「ユーコン」だけです。
 「ベトナム」は圧倒的な濃度と、やはり感動的なラストがあるのでベスト3となると選ばないわけにはいかない。当然、先ほど書いた通り、目覚めさせてくれたことへ敬意を表するってのもあるし。
 実際「ユーコン」と「ベトナム」はベスト選出に選んでいる人もいっぱいいるようですし、このふたつは妥当と言えるでしょう。

 問題は「アメリカ」です。しかし凄さだけでいえば実は「アメリカ」が一番凄いと思うわけでね。
 「笑い」の種類の中に「人間関係の笑い」というものがあり、ドリフターズ(とくに荒井注在籍時)は人間関係の笑いを膨らませた笑いをメインにしていました。
 人間関係の笑いを自然発生的にやるのは非常に難しく、キチンと台本の上で作り込まれているか、もしくは相当に偶発的な要素がなければなかなか人間関係の笑いまで到達出来ません。
 ところがノンフィクションでありながら、完璧なまでに人間関係の笑いを表現出来たのが「アメリカ」なのです。

 人間関係の笑いにはダイナミックにドラマが反転する下克上は不可欠ですが、とあるアクシデントをきっかけに見事としか言いようがない下克上が展開される。「良く出来たフィクション」でもここまで鮮やかな下克上は見たことがなく、下克上を起こされた側が精神的に崩壊して完全にタガが外れるのも素晴らしい。とにかくいろいろな意味で神がかった企画です。
 ノンフィクションとは書きましたが、バラエティである以上演出が入ってないとは言わない。しかし逆にこれをすべて計算でやったとするならそっちの方が凄い。
 小ネタではなく、本当は人間関係の笑いだけに注力して見て欲しい傑作です。

 ただ、当たり前だけど、レギュラー放送終了後はいろいろとくたびれてきていたのは否めない。
 復活後で言えば「ジャングル・リベンジ」と「激闘!西表島」はまあまあ良かったし、「原付日本列島制覇 東京-紀伊半島-高知」もフォーマットをキチンとなぞったところはまずまずだった。
 けど「ヨーロッパ20ヵ国完全制覇 ~完結編~」もイマイチだったけど、さすがに「初めてのアフリカ」はなぁ。あれは編集が悪すぎる。テレビ番組であることを無視しすぎて、何だか生素材を見せられているような気分になるっつーか。もし半分の放送回数ならぜんぜんイメージが変わったと思うしね。

 ところが2019年の「家建てます」から再び息を吹き返しつつある。
 何より大きかったと思われるのは藤村Dと嬉野DがYouTubeチャンネルをはじめたことなのですが、ヒカキンをはじめとしたユーチューバーの動画の編集スタイルの大元は、誰がなんといおうと「水曜どうでしょう」なのです。
 限りなく低予算で、限りなく少ない人員で、それでいて「熱狂的な視聴者を得る」となったら、どう考えても「水曜どうでしょう」を手本にするのが妥当であり、直接的に影響されたかはともかく、何らかの形で、間接的にでも、ほとんどのユーチューバーはどうでしょうの影響を受けている。
 藤村Dと嬉野DはYouTubeをはじめることで、いわば自分たちのフォロワーとも言えるユーチューバーと接触を持ち、自分たちの「編集のやり方」を咀嚼し直したのではないかと思うのです。
 その結果、レギュラー放送終了後に作られた企画にあった「編集の<ダレ>」が消えた。それこそ「初めてのアフリカ」とは雲泥といってよく、2020年の「21年目のヨーロッパ」など近年ではあり得なかった「大泉洋のトークをバッサリ切る」なんてこともやった。

 アタシが望む望まないにかかわらず、本当に「一生どうでしょうします」なんだろうから、これからも新作は放送されるんだろうけど、編集なんて視聴者が「ここ、もうちょっとじっくり見たかったな」とか「いくらなんでも切りすぎだろ」くらいでちょうどいいんですよ。いくら面白くても全部見せようと思ったらダメなんです。
 ま、少なくとも「家建てます」と「21年目のヨーロッパ」を見る限り、この感じでやれば大丈夫な気がするのですがね。

2005年に書いた当時は正直「水曜どうでしょうの面白さ」をまだ掴み切れておらず、2018年のリライトに合わせて改稿した時に大幅に書き直したのですが、どうもまとまりが悪くてね。
しかし2021年にした改稿で良い感じにポジティブさのある良いエントリになったと思います。
テレビ番組もそうだけど、こんな駄文でも結局大事なのは<編集>なんですよ。最近つくづくそう思うわ。




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